表題番号:2023C-108 日付:2024/04/05
研究課題利用実態及び運営実態の変容に着目した農空間の現代的特徴の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 助教 小松 萌
研究成果概要

本研究では、東京都足立区、世田谷区、三重県四日市市の市民農園を対象に、現地調査及び聞き取り調査によって人々の利用実態と市民農園の運営実態及びその変容を明らかにした。例えば、足立区の事例では作物の栽培だけでなく、食事会やマーケット、農業講習会が定期的に開催されている。かつて花卉栽培で使用していた作業場や納屋、母屋の庭を開放しており、特に納屋を休憩場所として利用する畑利用者や、畑と畑の間の通路部分で他者と会話する畑利用者の姿が多く見られた。またイベント時には、畑を利用していないイベント参加者が畑を観察しながら会話する様子が多く見られ、作業している畑利用者に話しかける場面もあった。以上のように、市民農園の利用は作物の栽培に留まらず、畑を介した他者との交流へと拡大している。そして、そのような人々の行為を誘発するための付帯施設の整備や、それらの配置計画など、空間的工夫が施されていることが明らかになった。

また、対象事例の開設主体及び運営主体はともに土地所有者であるが、マーケットや農業講習会などを開催するにあたり、多様な人々が関与していることが明らかになった。特に関係者の役割の変化について、もともとはイベントの参加者であった人物が自身の企画を土地所有者に売り込み、マーケットの開催主体となった事例や、畑利用者と近隣住民がイベントで意気投合し女性調理部が結成され、イベント時に出店するという特徴的な事例も見られた。さらには、積極的な畑利用者が現在では対象事例でのイベントの運営側に就いている例もあった。以上のように、イベントはより多くの人々を集め、市民農園に関心を持ってもらうための手段の1つであるが、同時に、食や健康など農にまつわる様々な内容のイベントや催しの中でこれまで出会わなかった人々が結びつくことで、参加者が主体へと変化するきっかけを生み出していることが明らかになった。