表題番号:2023C-076 日付:2024/03/08
研究課題低所得世帯の経済的不安感とリスクへの準備状況に関する分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 大学院会計研究科 教授 大塚 忠義
(連携研究者) 日本大学商学部 教授 岡田太
(連携研究者) 八戸学院大学地域経営学部 准教授 崔桓碩
(連携研究者) 商学学術院 非常勤講師 谷口豊
研究成果概要
  低所得世帯は相対的に生活リスクが大きく、生活リスクに対しての準備が必要であると考えられる。しかし、低所得世帯は共済・保険の加入率が低いことが確認されており、生活リスクの準備ができていない状況である。全労済協会の「共済・保険に関する意識調査結果報告書(2019年版)」(以下、「報告書」という)では、共済・保険への加入の有無により生活リスクに対する保障意識が大きく異なる点を明らかにした。そして、本来保障が必要であるにもかかわらず共済・保険に未加入者なため、生活リスクの発現に対し脆弱な世帯が存在すると警告している。しかしながら、問題提起された生活リスクに対する準備を行っていない世帯に対し、準備を行わない要因の特定までは行っていない。本研究の目的は、報告書で用いられた個票データを用いて、報告書では分析にいたらなかった低所得世帯の生活リスクの準備行動について構造的に分析を行い、生活リスクに対する準備を行っていない場合の要因を特定することである。
 分析の結果、生活リスクに対する準備を行っていない低所得世帯特有の特性が2点あることがわかった。ひとつが家計であり、もうひとつがアドバイスの有無とその相手である。家計に関しては支出構造と変動が生活リスクへの対応に影響を与えていることが想定される。従来から貧困研究は世帯収入の区分によって対象を定義してきたが、支出構造は世帯により差異がある。本稿で得た知見は、収入区分のみに基づく貧困世帯の分析には限界があることを示唆している。家計の変動に関しては就業形態が代理変数になっていると考える。正社員の場合とアルバイト・契約社員などの非正規雇用の場合で相反する影響を与えている。また、相談相手の有無に関しては、不安感が少ない人はリスクを過小評価している傾向にあり、リスク過小評価の人は相談しない傾向があり、相談しない人は保険・共済に加入しないというパスの存在を確認した。
 また、低所得世帯で生活リスクに対する準備を行っている要因に関し、保険加入と共済加入で差異が存在することも本稿で得た知見である。低所得世帯にとって、保険と共済は別種のものと認識されていると推測される。特に、生活リスクに関する相談相手に関しては保険会社、共済団体の推進の在り方に示唆を与える知見であると考える。報告書は低所得世帯の回答をもとに作成されているが、その結果を保険会社の営業職員の視点からみると、低所得世帯は有望な見込み客とはいえず積極的にアドバイス活動を行う対象とされていないと考える。その結果、低所得世帯の多くは、生活リスクの過小評価⇒相談者なし⇒保険・共済加入なしというパスを形成してしまっていると考える。一方で、家族に相談できる世帯は共済に加入するというパスが存在し生活リスクの軽減を行っている。このような仮説に基づくと、共済は低所得世帯が適切に生活リスクを評価することをサポートするという役割を担っていると思料する。