表題番号:2023C-073 日付:2024/04/01
研究課題取締役会と人的資本投資、企業の業績
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 教授 久保 克行
研究成果概要
 本年は人的資本と労働生産性の関係に注目した。主な成果は"Towards a human- centered approach to increasing workplace productivity: The case of Japan" である。この成果はAcademy of Management の年次総会で報告されたのちにInternational Labor Organizationから出版された書籍の1章となっている。この成果の概要は以下の通りである。日本の労働生産性は低下傾向にある。その背景および改善策について理解することが本研究の目的である。近年の特徴の一つは超長時間労働者の割合が減少していることである。労働投入量が減少している一方で、労働者が長時間労働に伴う健康問題を回避できるようになった結果、生産性が向上している可能性がある。また、非正規労働者の割合が増加していることも明らかになった。非正規労働者は正規労働者より訓練を受けておらず、サービス業など生産性の低い部門で働く傾向があるため、労働生産性は相対的に低い可能性がある。

 次に、日本における人的資源管理(HRM)の変化と生産性への影響に注目した。日本の大企業における伝統的なHRMの本質的な特徴のひとつは、職能資格制度である。テクノロジーが著しく発展するにつれて、この制度の利点はあまり目立たなくなってきている。また、年齢と給与の相関関係が低下していることも指摘されている。これらのことは、従来の社内研修によるスキル形成では、従業員のスキル蓄積が十分でなくなっている可能性を示している。労働者のスキルアップには、教育や職業訓練などの他の種類の訓練が不可欠である。

 生産性を向上させるための様々な施策が政策としても行われている。新しいコーポレート・ガバナンス・コードでは、労働者の人権尊重と公正かつ適切な待遇が強調されており、これには労働者の健康や労働環境への配慮も含まれる。同コードはまた、特に管理職における多様性の向上を企業に求めている。一部の企業は、役員報酬と女性管理職の割合など従業員関連指標との関連性を強化することで、経営幹部が従業員を重視するよう促している。