表題番号:2023C-066 日付:2024/04/04
研究課題中世スコラ哲学における「第一原理の認識」の諸相
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 准教授 辻内 宣博
研究成果概要
 本研究では,西洋中世における学問論の根本前提にあたる「第一原理」の認識について,複数のスコラ学者たちの見解を比較検討した。西洋中世スコラにおいては,学問(scientia)は,アリストテレスの『分析論後書』に即して,演繹推論の「結論」として位置づけられている。そして,演繹推論の前提となり出発点となる命題が「第一原理」と呼ばれるのだが,その認識は論証によるのではなく,知性/直知(intellectus)による把捉となる。
 この知性/直知による把捉には,大きく二つのタイプが考えられる。一方は,アリストテレスと同様に,感覚からの一般化,つまり,いわゆる帰納推論によって第一原理を知性が捉えるというタイプであり,この立場を鮮明に出しているのが,14世紀の学芸学部の教師であるジャン・ビュリダンであった。他方は,人間の知性(とりわけ,能動知性)に,「第一原理」が神の知性の真理から自然本性的に与えられているというタイプであり,この立場を鮮明に出しているのが,13世紀の神学者であるトマス・アクィナスであった。
 このような「第一原理」の認識についての捉え方の違いは,とりわけ,人間の行為を対象とする「実践知」についての興味深い論点を提示することになる。つまり,感覚からの帰納推論によって「第一原理」を捉え,そこから実践的三段論法による実践知の構築を行うスタイルは,「実践知」の真理の在り処を,現実の人間たちの個別具体的な行為の中に見ることになり,いわば実践的真理をその時々の人間たちが形成していく可能性を示唆することになるだろう。他方で,後者の神の真理に由来する「第一原理」の捉え方は,現実の人間たちの行為の根幹に,いわゆる自然法のような絶対的で普遍的な真理の可能性を見ることになり,時代や地域を通底する実践的真理がこの世界にはいわば所与のものとしてすでに与えられている可能性を示唆することになるだろう。