表題番号:2023C-061 日付:2024/02/07
研究課題亜熱帯マングローブ林堆積物における有機物分解と微生物群集
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 准教授 吉竹 晋平
(連携研究者) 教育学部 学部4年生 月本将太郎
研究成果概要


 沖縄県石垣島の小規模マングローブにおける炭素循環の解明のためには、堆積物中の有機物の分解によって生成・放出される溶存無機炭素(DIC)の生成メカニズムや流出経路を明らかにすることが重要であると考えられた。本研究では当初有機物分解プロセスそのものに焦点を当てて実験を行う予定であったが、現地の堆積物に見られる非常に高い空間的不均一性、すなわち底生生物(ベントス)の造巣行動によって作られる巣穴が多数点在することが、有機物分解の結果生じるDICの河川・海洋への流出に大きな影響を与えると思われた。そのため研究計画を一部変更・発展させ、現地における底生生物による巣穴の基礎的な情報を取得すること、そしてその巣穴内部へのDIC流出過程の解明を試みた。

 石垣島のマングローブ林において、樹脂をカニ穴に流し込むことでその型取りを行い、その形状や体積、表面積を解析した。その結果、入り口の直径がわずか2–3 cmの巣穴であっても、地下部には表面積で3,600–4,900 cm2、体積で1,400–2,500 cm3もの空間が広がっていることが明らかとなった。また、生物種によって巣穴の形状は異なっていた。インターバルカメラを用いて地表面に多数存在するこれらの巣穴を注意深く観察したところ、約40%の巣穴では潮位変動に同期して巣穴内部の水面が上下していたが、残りの約60%の巣穴では単純に潮位変動に応じて上下するのではなく、上げ潮時に地表面に満ちてきた海水が巣穴上部から流れ込む様子が見られた。また、巣穴内部の水を経時的に採取してDIC濃度を分析したところ、DIC濃度が時間とともに増加する様子が確認できた。これらの結果から、干潮時においてもベントス巣穴内部に海水が滞留し、そこに巣穴の壁面を介して堆積物中の高濃度DICが巣穴内部の水に放出され、それが満潮時に河川や海洋に流出する可能性が強く示唆された。