表題番号:2023C-058 日付:2024/02/06
研究課題グラムシを政治思想史に読解するための方法論の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 准教授 千野 貴裕
研究成果概要
アントニオ・グラムシは20世紀前半のイタリアを代表する思想家であり、ヘゲモニーや市民社会などの概念によって知られ、思想史や政治学のみならず、戦後の人文・社会科学分野に広く影響を与えてきた。しかし、その思想の体系的研究は国際的にもまれであった。グラムシ思想の体系的研究には固有の難しさがある。彼の主著とされるものは、彼が獄中で執筆した約30冊の『獄中ノート』(1929-35)であり、短いメモ書きから長い論文に至る多様な原稿を集めたものである。著者自身がそれらを編集し出版する前に死去したため、その解釈は後世の研究者の裁量に大きく委ねられた。このため、意識的・無意識的に、研究者自身の解釈の方向性に沿ったノートに注目することで、グラムシのものとされる概念が精確な分析を受けないままに「独り歩き」する状況が発生しがちであった。このような事情により、グラムシ由来の概念の多くは、本来の緻密な分析を取りこぼしたまま、過度な単純化をともなって人口に膾炙している。そのため、こうした欠点を補うグラムシ思想を体系的に研究する方法の探究が求められている。それによって、グラムシ由来の概念の単純化を修正し、その思想の意義を明らかにすることが可能となるだろう。したがって、本研究は、文脈的読解に基づくグラムシ読解の方法論を提起することで、こうした問題状況を解決する糸口を提供することが目的とした。本研究では、とりわけ、グラムシの「南部問題」とリソルジメント論を取り上げ、グラムシの議論が同時代・先行世代の議論とどのように関係し、また独自性があるかを検討した。その結果、いくつかの新しい理解を導出することができ、文脈主義的な方法論をグラムシ理解に適用することの妥当性が確かめられた。この結果は、現在まとめている英語での単著の一部として出版予定である。