表題番号:2023C-056 日付:2024/04/05
研究課題「人としての扱い」の憲法的定位とその実現──公私を包摂するガバナンス構想の試み
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 遠藤 美奈
研究成果概要

 本研究は、人は「人として扱われる」べきという要請につき、日本国憲法上の根拠及びその規範的含意を明らかにし、各憲法機関とそれ以外の関係主体とが協働してその実現を図るためのガバナンスの構想を試みるものであり、そのことによって展望されるのは、「人としての扱い」の否定・拒絶を生み出す公権力/私人と個人との非対称の権力関係の構造転換である。本年度は本研究の開始年として、文献研究を中心に理論的基盤の形成を試みた。
 本年度はまず、学校教育全般と、校則のありようを、子どもや教員、教育行政など各主体の関係性に着目しつつ法的視点から分析し、さまざまに働く権力関係の意味付けとその制御可能性について考察するとともに、教育の場における「創造的な相互作用」のための自律の能力と市民性の涵養、個人の尊厳、労働と民主主義のありようなどの関連について検討した。次に、貧困研究者のルース・リスター教授の理論から示唆を得て、生活困窮者自立支援法に基づく相談支援を素材に、人を「人として遇すること」の構成要素とその憲法との結びつきについて考察し、さらに必ずしも組織化されていない市民による困窮者支援は何によって支えられるのかを模索した。そして、本研究の基盤を固めるべく、関係的アプローチを提示した法・政治理論家のジェニファー・ネデルスキー教授と最低限度の生活水準への権利の基礎づけ、立憲主義、ソーシャル・ワーク、市民の行動主義について意見交換を行い、多くの示唆を得た。
 本課題の成果として、校則を「排除」されないルールとして位置付けようとする論稿を公刊するとともに、憲法から見た学校教育について講演を行った。また、来日したルース・リスター教授とのワークショップに参加し、人が「人として扱われる」ことをめぐる憲法論に同教授の理論が与える示唆について報告を行った。ネデルスキー教授とのやりとりはこの先の研究の基礎をなすものとして活かされてゆくであろう。