表題番号:2023C-041 日付:2024/02/05
研究課題日本と東アジアにおける宣教美術の展開:「ロザリオの聖母」図像を中心に
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 児嶋 由枝
研究成果概要

報告者は、日本における宣教美術の展開を再構築するとともに、それを国際的な宣教美術、とりわけ東アジアにおける宣教美術という文脈の中において包括的に考察することを目指している。本特定課題研究では特にフィリピン、そしてマカオとの関係を「ロザリオの聖母」図像伝播という文脈において検証を進めた。

聖ドメニコが聖母マリアと幼児キリストからロザリオを授けられたという話にもとづく「ロザリオの聖母」は、ドメニコ会にとって重要な聖像であった。しかし一方、カトリックの神聖同盟軍がオスマントルコ軍を破った1571年のレパントの海戦の勝利が「ロザリオの聖母」の奇蹟に帰されて以降、「ロザリオの聖母」はカトリック教会全体の異教に対する勝利の象徴となり、西欧カトリック世界ではドメニコ会と関係なく数多く描かれるようになる。すなわちカトリック宗教改革期ないしは対抗宗教改革期、「ロザリオの聖母」はスペイン系の托鉢修道会とポルトガル系イエズス会の双方にとって重要な聖像主題となったのである。そして、1529年のサラゴサ条約によって、ポルトガルとスペインはさらに太平洋東部を縦に分割してそれぞれの帰属としたが、この分割線が日本の上を通過しることは重要である。 日本は、托鉢修道会系とイエズス会系の双方の「ロザリオの聖母」図像の交差地点と考えることができるからである。本特定課題研究では、とりわけマニラのサン・アグスティン修道院にある《ロザリオの聖母》に着目して、この問題について検証を進めた。この、マニラの《ロザリオの聖母》は、イタリア人イエズス会士で画家のジョヴァンニ・コーラが長崎や天草で主催した画学舎で学んだ日本人画家の手になると考えられ、またマカオとも関係が深いと考えられるのである。