表題番号:2023C-038 日付:2024/04/02
研究課題ジョルジュ・ペレックの創作における変名と運命
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 講師 後藤 渡
研究成果概要
 2023年度特定課題「ジョルジュ・ペレックの創作における変名と運命」は、ジョルジュ・ペレックの作品における登場人物の名前の中にその人物の運命が予示されているという点、すなわち彼の命名法が有縁的なものであるという点に着目し、変名の用法を詳らかにした。調査の中で明らかになった一番重要な成果は、作家の命名法が小説中の登場人物にとどまらず現実の人物の名前の変奏にもとり入れられているということだった。
 成果としては次の発表があげられる。2023年6月11日にフランス国立図書館アルスナル館で行われた実験文学集団についての年次セミネール「形式、制約、可能性」« Formes, Contraintes et Potentialités »で発表した「ジョルジュ・ペレックのラジオの冒険―収蔵庫と鏡としての≪途絶えざる詩≫」(« Une aventure radiophonique de Georges Perec : Poésie ininterrompue comme réserve et miroir »)で詳らかにした。前半部は科学研究費研究活動スタート支援「20世紀フランスにおけるラジオとテクストの相互性」(22K2000)の成果で、作家の盟友、数学者であり詩人でもあるジャック・ルーボーのペレックへの影響について詳らかにした後に、ペレックがルーボーの名前を変奏した「J. R. 固有名詞研究を飽和させる試み」(« J. R. Tentative de saturation onomastique (extrait) »)を分析の対象とした。この小品の中でペレックは、慣習的に聖人名をつけているのみで、ほとんど運命や意味を内包していないジャック・ルーボーという名前を変奏し、変奏された名と名前を持つ人物の簡単な来歴を創作している。人物の来歴は名前からも想起できるものもあり、来歴はルーボーの伝記素ともいえるような生の断片を内包している。すなわち、名前の変奏や来歴はルーボーの生の一側面にのみ光を当てることでルーボーであるがルーボーではない人物を生みだしている。
 本研究で明らかにしたのは、ペレックの変名が実在の人物にも適応される点、そして、そうした変名は運命を予示するものではなく、ありえたかもしれない生の可能性を示すものだという点である。