表題番号:2023C-031 日付:2024/02/23
研究課題西田哲学と芸術
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 教授 小林 信之
研究成果概要
「西田哲学と芸術」の問題を主題化するにあたって、とりわけ西田幾多郎独自の概念である行為的直観という観点から芸術の問題を考えることに注力した。行為的直観とは、わたしたちの実践そのものに、それを映すまなざしがどこまでも一体化していることである。そして西田幾多郎の哲学においては、行為と直観の両者による相互作用こそが歴史形成を導くものと見なされている。ところでこの行為的直観は、ポイエシスの原理として技術と深くむすびついているが、西田はその際、卓抜な技術としての「芸術」の働きに注目している。あるいはむしろ、歴史を制作的・ポイエシス的なものととらえ、相反する作用の統一である行為的直観のうちに歴史形成の論理をみる視点は、技術一般の純粋化された形態である詩や芸術の創造活動においてはじめて見てとられたのではないかとさえ思われる。たとえば彼は「弁証法的一般者としての世界」のなかで、「芸術的創作作用においては、われわれは概念的に物を構成するのではない、また単に受動的に物を模倣するのでもない。物がわれを唆すのである、われわれを動かすのである」と述べている。この意味で芸術の創造作用は、歴史における実践を、制作からとらえる視点を提供したと解することができよう。じっさい西田が「歴史的形成作用としての芸術的創作」といった論文を記したのも、まさにこうした観点に基づくものと考えられる。この論文で西田は、ハリソンやリーグルやフィードラーといった芸術学者の諸説を敷延しつつ、わたしたちの意識作用がその成立の根源から表現的であり、形成的であり、つまりはポイエシスであることを論じているのである。