表題番号:2023C-030 日付:2024/03/29
研究課題西洋古典古代後期の文学における戦争および疫病と都市
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 教授 宮城 徳也
研究成果概要
個人研究費と併せて,ギリシャ共和国のアテネに行くことができ,その間,紀元前430年に有名な疫病が発生したアテネの街とペリクレスの籠城作戦の根拠となったペイライエウスの港を実地検分し,合わせて諸博物館とアクロポリスなどの古代遺跡を訪ねて,ペリクレス以前の時代から,ローマ支配下の時代,やはり有名な疫病が起こった紀元後6世紀のユスティニアヌス帝の時代を含むビザンティン帝国時代のアテネの都市構造を理解する手掛かりを得た.さらに,ミケーネ,デルポイ,アイギナ島の古代遺跡,博物館を訪ねることができ,先史時代から古代後期にいたるまでの,ギリシャ地域,ギリシャ民族の歴史に関する文献資料に拠らないパースペクティヴを得ることができた.その中で,古代人にとって疫病,戦争と深く関係する信仰の問題に関しては,2022年11月に行なった講演をもとに,ディオニュソス神を死と再生の点からとらえ直した可能性があるザグレウスと言う神名について再考して,論文にまとめる機会を得,「ウォルター・ペイターとギリシア悲劇 ザグレウスとしてのディオニュソスをめぐって」(『ヴィクトリア朝文化 』21)に結実した.諸博物館でディオニュソス像,別の神格と考えられる蛇の姿の彫刻などを見ることで,論点の補強となる発想の一旦を得ることができた.以前発表した論文「古典古代の疫病と都市 文学作品における描写」とのリンクは今後の課題だが,ザグレウスが古代後期の詩人ノンノスの叙事詩『ディオニュシアカ』で印象深く扱われているとを考えると,古典古代後期の文学作品の中に,「死と再生」の神と疫病,都市におけるその信仰と関連付けられ,「古典古代の疫病と都市 文学作品における描写」でも触れた戦争との,その関連性が浮き彫りになってくると思われる.文献資料に拠った研究ではあるが,古代ギリシャに関する視覚的理解を深めることができたのは非常に有意義であった.