表題番号:2023C-026 日付:2024/03/26
研究課題社会的格差の拡大と民事訴訟審理
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 大学院法務研究科 教授 高田 昌宏
研究成果概要
 市民間の社会的経済的格差の拡大に象徴される社会状況の変化のもと、社会に生起した法的紛争の解決を担う民事訴訟制度のあるべき姿を探るべく、上記社会状況の変化が民事訴訟制度や民事訴訟の規律に及ぼす影響について考察を試みた。研究の方法としては、わが国の民事訴訟法に影響を及ぼしてきたドイツとオーストリア両国の民事訴訟法の立法、学説および実務の展開に注目した。その理由は、わが国の民事訴訟法の母法とも言われるドイツ民事訴訟法と、様々な社会問題が発生した大正期のわが国の民事訴訟法改正に影響を与えたオーストリア民事訴訟法は、わが国とは異なり、これまでに社会的弱者の増加をはじめとする社会変化や社会問題に対して様々な対応や取組みを積み重ねてきたからである。とくに、オーストリアについては、社会的弱者の保護を標榜する社会的訴訟観の影響下で制定された1895年のオーストリア民事訴訟法を比較法的に考察し、ドイツについては、社会的弱者の保護を目指して1970年代に提唱された「社会的民事訴訟」の理論に対して比較法的考察を試みた。後者の「社会的民事訴訟」の理論については、訴訟審理の過程での裁判所の(補償的)役割を中心に、近年のドイツの研究論文を手がかりに研究を進めた。なお、近時のドイツの民事訴訟法学の領域では、実体法や基本法(憲法)に由来する価値が手続法としての民事訴訟法に影響を及ぼす現象が「民事訴訟の実体化」と呼ばれ、議論の対象とされており、社会的弱者の保護という価値実現もその枠組みのなかで把握する余地があることから、「民事訴訟の実体化」の現象や動向に対するドイツ民事訴訟法学の姿勢を観察することも、わが国の今後の民事訴訟のあり方を考えるうえで有益であるとの認識に至った。そのため、前述の社会的民事訴訟の理論だけではなく、民事訴訟の実体化に対しても考察を継続しつつ、その成果を公表していく予定である。