表題番号:2023C-020 日付:2024/04/07
研究課題経験科学的事実と刑法解釈学の関係について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 法学部 教授 松澤 伸
研究成果概要

刑法解釈学を客観的なものとするための方法については、様々な見解が主張されてきた。その中で、従来、我が国において有力だったのは、経験科学的事実に基づいて、刑法の解釈が最も有効となる解釈を取るべきである、という主張であった。すなわち、ある解釈を主張する者の主観的な意見表明としての解釈ではなく、客観的な事実に基づいて、このような解釈を行えば、実際に犯罪を抑止できる、といった形で、ある解釈について、正統性を与えようという考え方である。本特定課題の当初の目的は、この解釈の方法について、ある程度、抽象的・一般的なレベルで議論を展開することであり、実際に、アウグスブルク大学法学部のヨハネス・カスパー教授とともに、刑法学の基礎理論、犯罪論、刑罰論(特に量刑論)、行刑論の4つのレベルにおいて、経験科学的事実がどのような意義を持つか、オンラインで、定期的に共同討議を行い、英語論文を作成中である。ただ、この論文を作成する中で、もう少し具体的な場面で、上記の方法を展開し、そこから、帰納的にこの問題を考える必要を感じたところであった。そこで、経済刑法を検討の素材として、経験科学的事実がどのように具体的な解釈論に反映されているか、研究を行うこととした。この研究は、さらに、若手・中堅の刑法学者にもご参集いただいた共同研究の形に発展し、松澤伸編『基本学習・企業犯罪と経済刑法』(商事法務・2023年刊行)という形でまとめることができた。この書籍において、私は、序章、営業秘密侵害罪、外国公務員贈賄罪について、上記の視点から検討を加え、一定の成果を得ることができたと考えるが、特に、序章においては、経済刑法における刑罰の用い方について、抽象的・一般的な形で議論を展開することができた。今後、これらの成果を、上記カスパー教授との共著論文に反映させ、近日中に、目標であった英語論文を完成させることとしたい。