研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 法学学術院 法学部 | 教授 | 大塚 直 |
- 研究成果概要
EUのAI責任指令案について検討した結果、完全自動運転に関する民事責任について日本法には以下の課題があることが明らかになった。
第1は、完全自動運転車による事故をどう考えるかという問題がある。これは新たな科学技術であり、(通信障害などを含め)未知のリスクを含むものであり、リスクの最小化のために民事責任を用いるべきであると考えるか、それとも、従来よりも事故による損害のリスクは減るといわれていることを信用し、リスク最小化のために民事責任を用いることを否定するか、である。
第2に、国土交通省研究会の示した案③(自動車メーカー等は、運行供用者とともに、第1次の責任主体として扱われる)に対する批判としては、被害者が最初から製造者等を被告として当該自動車の欠陥を証明することは極めて困難であることが、一応指摘できる。もっとも、この点に関する対応としては、i)ハイリスクAIが関連している場合については、欠陥を推定する立法をするか、ii)開発者等の情報の開示を命ずることが適切であろう。さらに、――欠陥の推定等がなされない場合——保険会社もまた欠陥の証明は困難であり求償は成功せず、結局製造者の事故抑止にはつながらないことになる。
第3に、現行の運行供用者責任を維持する理由として、被害者がAIないし関連製造物の欠陥を証明することの困難に対処するために有用であるとする立場が維持できないことを前提とすると、最大の論点は、――現行の自賠法において、製造物に構造上の欠陥又は機能上の障害がなかったことが運行供用者の免責のための必須要件となっていること(3条但し書き。運行供用者による製造者の責任の肩代わり)は、自動車事故のほとんどが運転者の落ち度によるものであるという状況を理由としているが――、完全自動運転においては、この理由付けを維持できなくなる可能性が高いことである。