表題番号:2022C-643 日付:2023/09/11
研究課題国際環境協定の動学ゲーム分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 社会科学総合学術院 社会科学部 教授 赤尾 健一
研究成果概要

協力微分ゲームにおいて、前年度に得たlong run envy freeのアイデアを2国間の効用関数のウエイトに適用した。ここでlong run envy free とは、2国の経済活動水準が定常状態において同じとなる状態を指す。本研究のモデルでは、汚染ストックは2国で共通なので、この状態は envy free である。その状態を実現するための効用関数のウエイトを導出した。ウエイトは、2国の生産性に依存し、1国がより生産性が高い場合、1国のウエイトは2国のそれよりも小さくなる(これは直観的にも明らかな結果である)。さらなるウエイトの特徴づけに関しては、現在研究を続けている。

Envy freeに対して、効用レベルで同じウエイトを与えた目的関数を最大にする解を utilitarian equityと呼ぶ。興味深い結果として、定常状態での汚染ストックは、汚染の限界被害が両国で等しい時には、utilitarian equityにおいて最大となる。一方、定常状態での汚染ストックが最小になるのは、どちらかの国の効用のウエイトをゼロとしたときであり、衡平性と環境保全が乖離するという結果が得られた。

Envy freeutilitarian equityと比較して、より低い定常状態での汚染水準をもたらすかに関しては、まだ明確な答えを得ていない。汚染の限界被害が1国の方がより大きい場合、Envy freeの方が汚染ストックの水準が高くなる可能性がある。

以上、まだ研究は進行中だが、これまでの結果から、効率的な状態のうち、国際交渉(ここでは素朴に協力解が選ばれると考えている)で選ばれる結果が、必ずしも環境面で望ましいものとなるとは限らないことが示唆される。