表題番号:2022C-362 日付:2024/04/08
研究課題演劇の映像音声記録資料の利活用をめぐる基礎的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 児玉 竜一
研究成果概要

 演劇の映像音声記録資料の利活用をめぐる基礎的研究として、前年度に出現した初代中村鴈治郎に関わるきわめて貴重な新資料の整理と調査をおこない、これを広く一般に紹介するための機会を多数設けることによって研究の社会還元をおこなった。

 具体的には、無声で収録された映像資料について、既存の映像資料との異同点検をおこなった。松竹が所蔵する「初代鴈治郎舞台の面影」に収録されているものとの重複が多く見られたが、松竹版に整理されたものと比較すると、有意義な無駄ともいうべき、不作為の収録部分を含むことが確認された。他に、従来まったく知られていなかった舞台映像、プライベートの映像、初代鴈治郎葬儀の映像など、近代大阪の演劇と文化を考える上で、きわめて重要な資料であることが判明した。

 これらの上演年代の特定(従来の年代推定の誤りをいくつか正した)をおこなうとともに、場面を特定した。プライベート映像や、葬儀の映像では、撮影された場所や人物の特定をおこなった。これらの作業は、従来の研究蓄積である録音や舞台中継の録画、演劇雑誌、写真類などを縦横に駆使することによって可能となったものである。

 同コレクションに関する具体的な成果発表としては、上映する映像の選定から携わって、国立映画アーカイブにおける「発掘された映画2022」プログラムの一環として、2回にわたって、100分にわたる映画解説をおこなった。さらに、国立映画アーカイブでは取り上げなかった映像を含めた増補版にあたる上映と解説を、全国学会である歌舞伎学会でおこない、さらにこのアーカイブの意義について渡辺保氏と公開対談をおこなった。

 同コレクションについては、日本演劇学会2023年度大会において、初の関西公開を予定している。

 なお従来から継続している、現存する劇場中継映像のデジタル化については、歌舞伎、新派、新劇、商業演劇等にわたる、戦後日本演劇諸ジャンルの放送映像資料の大半の動向をつかむことが可能となったが、さらにDVD等未発売の日本映画のデジタル化にも範囲を広め、映画の記録性の効用などについて、多くの知見を増やすことが可能となりつつある。この延長上に、「劇場(を記録した)映画」などの新しい領域を望見することが可能となりつつある。

 これらの調査研究には、活字資料として演劇雑誌研究の蓄積が大きく貢献していることはいうまでもない。雑誌研究については、従来から進展した部分を含めて、楽劇学会におけるシンポジウム「楽劇関係の雑誌をめぐって」において公表した。また、音声資料をめぐる演劇の「場面」の切り取り方について、「Shakespeare and Kabukifragmentation and visualization」と題した英語発表を、国際シェイクスピア学会「FOUND IN TRANSLATION」にておこなった。これまで「日本演劇」の映像音声記録資料の研究を進めてきたのを踏まえて、海外の演劇を含めた、演劇全般の映像音声記録資料の研究を進めるための鍬入れというべきであるが、海外の演劇研究との方法や資料操作上の比較をめぐる意見交換をも予定している。画像、写真、映像、音声といった、多岐にわたる資料調査と研究方法を、海外の演劇(特にシェイクスピア研究を想定している)との比較において、互恵的な関係のもとで紹介しあうことで、従来の調査結果をさらに活かすことができるものと考えている。