表題番号:2022C-342 日付:2023/02/02
研究課題区分所有法の改正提案事項に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 大学院法務研究科 教授 鎌野 邦樹
研究成果概要
 本特定課題研究は、国内外の研究者・行政機関・法曹等実務家の協力を得て実施してきた10数年にわたる科学研究費補助研究における諸外国の区分所有法制(ドイツ、フランス、アメリカ、イギリス、スイス、オ-ストリア、ベルギー、ギリシャ、オ-ストラリア、韓国、中国、台湾等)の比較研究の成果に基づき、わが国の区分所有法制のあり方を考察するものである。この点については、2022年10月より、法務省法制審議会にて区分所有法改正の審議がなされており、本研究助成金支給者である鎌野も同審議に加わっている。
 本助成に係る調査研究を通じて得られた成果は、次の①~③のとおりである。
 ①現行制度による5分の4以上の特別多数決議による建替えについては、これまでの建替えの実績をみると(270件)、その大部分が、余剰容積を活用して新規分譲に係る新たな専有部分を総出し、それを分譲する事業者の参加のもとで、区分所有者の費用負担を低減化することによって、建替えの合意形成が成立したものである。しかし、高経年マンション等では多くの高齢者がいることも考慮すると、今日、十分な余剰容積がある区分所有建物はごく僅かであり、5分の4以上の合意形成を要する建替えは極めて困難であると考えられる。しかし、高経年ないし老朽化のマンション等(現行の耐震基準を充足しない区分所有建物も含む)が増加する状況において、このような建物をそのまま放置することは適切ではなく、円滑な建替えのためには、多数決議要件を現行の5分の4以上から4分の3以上に引き下げるべきであると考える。しかし、賛成区分所有者の側(参加事業者を含む)は、非賛成区分所有者の専有部分等を時価で買い取らなければならないことから、これ以上の引き下げは適切でないと考える。
 ②上記の建替えについて、①で述べたように多数決要件を4分の3以上に引き下げた場合でも、実際には相当困難であると思われる。そこで、まずは、現存の区分所有建物を、適切に管理し、また適宜改良(変更)をして、できるだけ長寿命化させることが必要である。そのためには、管理および変更が円滑に進むような集会における多数決議要件を引き下げることが求められる。さらに、現行法制では、全員の合意が必要である「一棟リノベ-ション」(建物の躯体は維持して、共用部分と専有部分を改良する手法)を、建替えと同様の多数決要件で実施できるような法改正が求められる。
 ③ただ、上記の長寿命化についても、そのための費用負担との関係で、当該長寿命化が区分所有者にとって過分のものとなることがあり得る。そのような場合には、現行制度では、被災区分所有法とマンション建替え等円滑化法に認められている多数決議による「解消制度」(建物敷地売却等)を導入する必要があると考える。