表題番号:2022C-022 日付:2023/11/06
研究課題刑法学における方法論の再検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 法学部 教授 松澤 伸
研究成果概要

申請者は、“Methodology of Criminal Law Theory: Art, Politics or Science?”(Nomos Hart 2021)という書籍において、年来主張している機能主義刑法学の方法論を、アップデートしつつ示した。これに対し、スウェーデン・ストックホルム大学のペッター・アスプ教授は、批判的論文を同書に寄稿している。そこで、規範的刑法学を擁護するアスプ教授の立論を検討し、私の立場から、これにいかなる反批判が可能か、検討した。

アスプ教授の批判内容は、法の規範的性質についての議論が中心となっているが、その内容を整理すると、以下のようになるであろう。――(1)法は規範的な解釈が必要であり、松澤理論(事実的刑法学)とアスプ理論(規範的刑法学)は、ほとんど「正反対」の立場である。(2)規範的刑法学においては解釈を拘束ないし制限する価値的パターンの導出が重要であり、それには価値論的一貫性があることが前提となる。(3)法はその性質上解釈を必要とするものなのであり、法学も規範的なものとならざるを得ない。そして、法には解放性があり、それゆえ多様な規範的アプローチを行う必要がある。

それぞれにつき、申請者の立場からは、以下のような反論が可能である。(1)申請者の理論でも、規範的刑法学の存在意義は認められる。裁判官に対する提言としての法政策においては、規範的刑法学の存在余地がある。(2)申請者の理論から見れば、最も本質的な問題は、規範的刑法学における価値的パターンあるいは原理の抽出が、抽出者の主観によって行われる可能性がある、ということである。この点について、アスプ教授からの返答はない。(3)アスプは、「法律学に関する我々の見解は、法に関する我々の理解の派生物である」と言う。しかし、この命題の導出には、論理必然性が一切ない。法がどのようなものであるかということから、法に対するアプローチ方法を、無条件に引き出すことはできないはずである。