表題番号:2022C-006 日付:2022/11/13
研究課題東京都及び埼玉県排出量取引制度の実証分析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 政治経済学部 教授 有村 俊秀
研究成果概要
 これまでに続き、東京都及び埼玉県の排出量取引制度について、実証分析を行った。特に、今年度は東京・埼玉の排出量取引制度について、温室効果ガスの算定報告制度を活用しながら、削減効果の持続可能性およびリーケージについて研究を行った。その結果、東京、埼玉県の両制度が、第二フェーズになっても排出削減効果があることが分かった。また、両制度がもたらす炭素リーケージについて分析をおこなったところ、企業内では、負の炭素リーケージが起こっていることが分かった。つまり、東京埼玉で排出削減を実施する場合は、当該企業は他地域の事業者でも排出削減を行っていることが示された。原因としては、排出量取引がきっかけに、企業内のエネルギー効率ギャップが解消された可能性が考えられる。この成果はEnergy Economicsという国際学術雑誌に共著論文として公刊された。
 また、日本での脱炭素のためのカーボンプライシングの導入の可能性の方向性について、とりまとめた。そこで 欧米及び日本を対象とした事後検証を中心に排出量取引に関して明らかになったことをレビューし, 産業界の懸念に対して, 学術的な回答を示した. 特に, 多くの事後検証から, 排出枠の価格が低下しても, 制度が安定しており, 将来的に削減目標が厳しくなることが分かっている場合, 排出量取引は削減効果を発揮することが示唆された. さらに, 炭素リーケージ・国際競争力問題については, 排出枠のアップデート方式の配分方法などの対応方法についての経済分析を用いた効果を紹介した. 最後に, 脱炭素社会に向けた第一歩として, 自治体による排出量取引制度の全国展開を提案した。この成果を環境科学会誌に公刊した。
 さらに、炭素税も含めて、脱炭素社会に向けたカーボンプライシングの役割を、脱炭素の技術の普及の観点から、議論を行った。多くの工学者にも参加してもらい、その成果を、共編著「カーボンプライシングの現状と展望—排出量取引の事後検証と日本における可能性について—」(有村俊秀・杉野誠・鷲津明由編著)の書籍として公刊した。