表題番号:2021C-551 日付:2022/05/31
研究課題時間変動を考慮した設計プロセスの円滑な進展の支援技法に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 教授 宮下 朋之
研究成果概要
研究開発活動において,投資の判断材料として技術ライフサクル上のステージの推移を捉えることは重要な課題である.特に近年,技術革新が加速し市場競争が激化するなかで,いち早く正確に技術ライフサイクルを捉える手段として定量的な技術進化の評価手法が求められている.一方,技術進化は他技術の動向や社会情勢といった外部の作用を受けるため,より正確なモデル構築にはこれらを考慮する必要がある.
そこで本研究では,従来技術とそれに対して優位な類似の新規技術とが存在する競争系に関して,技術進化曲線モデルとウェーブレット変換を組み合わせた手法を提案し,類似技術の競合の定量的な測定によって合理的な投資判断に資することを目的とした.
2. 研究方法
競争系に関する技術成長曲線モデルとしてはLotka-Volterra方程式を用いた.
Lotka-Volterra方程式は,内的自然増加率と環境収容力 によって決まる成長と,外的阻害係数によって決まる累積発明数に応じた相互の競合関係を表現した連立微分方程式である.外的阻害係数は正値の場合には阻害度,一方負値の場合には寄与度の表現となる.
波形の足し合わせを原理とするウェーブレット変換に対して,外的成長阻害係数を含むLotka-Volterra方程式の描く非対称な曲線から得られるスカログラム上に現れる稜線は周波数の時間変化を反映してゆがみを生じ,そのまま同定を行うことが困難である.そこで,事前に外的な成長阻害による発明数の減少分を推定し除去することでウェーブレット変換に適した形に補正する式を導入した.この補正式を踏まえて,Lotka-Volterra方程式によって推定された技術成長曲線と特許出願数のデータそれぞれのスカログラム上の稜線を比較することで,技術ライフサイクルの波形の周波数推移を観察し,技術進化の動向を明らかにした.

技術成長の計測手段としては,年間特許出願数の推移をデータに使用した.本研究では,事例研究として画像素子におけるCCDセンサとCMOSセンサに関する技術の特許出願数のデータを用いて,提案手法の有効性を確認した.

CCDセンサとCMOSセンサに関する年間特許出願数の推移をウェーブレット変換したスカログラムを算出した。これに対し補正を行い稜線の同定を行った結果をと得られたパラメータによる技術成長曲線を同定した。

同定されたパラメータからは,外的阻害係数は両者とも負値であることから画像素子におけるCCDセンサとCMOSセンサの競合は相互に技術成長を阻害する関係であることが確認された.また,外的阻害係数を比較するとCMOSセンサにおける値がより小さく,技術競争において優位であることが読み取れた.

ウェーブレット変換を用いた競争系における技術進化曲線同定手法を提案し,類似技術の競合する製品開発において技術進化曲線の周波数の時間変化に相当するスカログラム上の稜線のゆがみに注目することが有用であることを示した.