表題番号:2021C-005 日付:2022/04/04
研究課題非アメリカコンテクストにおける有権者の政治情報に対する選択的接触傾向の探索
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 政治経済学部 助手 劉 凌
研究成果概要
本課題は、メディア信頼が高い国における有権者は、なぜメディアを信頼するにもかかわらずメディアの報道に影響されずに政治的意見を変えないのかという問いを解明することを目的にしている。メディアがどのような効果を持つかという問いは、政治コミュニケーション分野の古典的な命題であり、今日においても重要な意味を持つ。この問いに対して蓄積されてきた主だった学術的知見は、メディアが人々に与える影響は「限定的なものである」というものであり、いわゆる「限定効果論」として定式化される。この理論は、アメリカをはじめ、日本や欧州諸国など多くの国の実証データによって支持されている。しかし、メディア効果が限定的であるという実証結果を説明するために用いられる既存の理論は、主にアメリカで発展したものであり、必ずしもそのまま他の国に適用できるわけではないと考えられる。なぜなら、アメリカは他国よりもメディアに対して不信感が強いためである。本課題は、人の態度維持の鍵となる情報接触過程に着目し、より高いメディア信頼を有している国の人は果たして既存の理論が想定する(意見と相容れない報道への)接触回避を行うのかを検証した。具体的には、調査実験(survey experiment)という手法を用いて、メディアの信頼度が国際的に高いレベルにある日本、中間レベルにあるドイツと香港を、アメリカと比較した。その結果、アメリカ人は既存理論の想定通りに自らの意見と相容れないメディア報道への接触を避けるものの、より高いメディア信頼を有している日本人、ドイツ人と香港人は、自らの意見と相容れない報道への接触回避をしないことを明らかにした。成果として、自分の博士論文にまとめ、2021年9月に早稲田大学政治学研究科に提出した。この博士論文は、2021年度政治学研究科長賞に受賞した。