表題番号:2020C-786
日付:2021/04/12
研究課題パスカルの『パンセ』における聖書
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 国際学術院 国際教養学部 | 准教授 | 檜垣 樹理 |
- 研究成果概要
読者はパスカルの『パンセ』において「人間」を見出しその普遍性を目の前にする。しかし対話はそこでは終わらない。そこには、他者であるパスカルをその他者性と特殊性においても徹底的に眺めることによって理解を深めることが求められるのだ。だが、実際『パンセ』における人間観察が多くの共感と反発の入り混じった様々な返答を得るのに対して、キリスト教に関する考察や数多く存在する聖書に関する記述や参照箇所は看過されるケースが大多数である。ところがそれはパスカルの作品と思想を理解するために不可欠であり、その中心部分を照らし出す可能性を秘めるものである。「聖書を暗記していた」(パスカルの姉のジルベルトによる伝記)とまで言われるパスカルには、準備ノートに一言書き留めれば全体を思い出すのに十分であった事もあり、一般読者に限らず研究者にとっても、『パンセ』にある数多くの聖書の出典には不明瞭で解明されるべきものが多い。
この点に関する数ある既存研究(Lhermet, Pascal et la Bible (1931)、Philippe Sellier, Pascal et la liturgie (1965)他)を、今新たに見直した上で、パスカルにおける聖書の出典の位置とその特徴を現代のコンテクストから明らかにする試みは有用であり、今後の研究の礎石に連なり得ると考える。世界のキリスト教関係者にも、今一度パスカルの宗教性を捉え直そうとする機運があり、今後さらに関心を引くものと思われる。初年度は、主に『パンセ』に置けるパウロの書簡が占める中心的位置に注目して、「メモリアル」をヒントにパスカルの聖霊体験の考察を深め、パスカルの霊性、聖性についての論文を 日本とフランスにおいて発表するための準備研究をした。