表題番号:2020C-545 日付:2021/04/02
研究課題親鸞・一遍と日本中世被差別民の問い――反差別社会の実現へむけて
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 法学部 教授 守中 高明
研究成果概要
 日本中世仏教史上、法然がはじめて切り拓いたのは、「一切衆生」を救済する普遍的平等の地平であった。究極の易行たる称名念仏だけを救済の条件なき条件としたその教えは、社会のあらゆる階層を包摂する革新的なものであった。  救済のその無条件化をさらにラディカルにしたのが、親鸞である。社会の規範的秩序の外へ排除された人々、とりわけ狩猟・漁労の民などの殺生せざるを得ない人々、「醞売」=酒を醸造し売る人々、すなわち「屠沽の下類」と呼ばれ「悪人」と見なされた被差別の民こそが救済の「正因」であると親鸞は考えたのであり、名高い「悪人正機」説とは、この時代においてはそのような反‐差別の教えを意味していたのである。  一遍もまた、被差別の民をみずからの「ともがら」として迎え入れた。全国を遍歴したその「遊行」と踊り念仏の集団には、つねに多数の「非人」たち、「異形異類」の者たちがいたことは『一遍聖絵』に見られる。一遍の教えの特異性は、被差別の民を踊り念仏の主体とし、その〈身体‐精神〉の力能を最大化させることで、宗教的‐社会的諸規範の抑圧的観念系列から解放された、まったき肯定性への目覚めを与えることにあった。  親鸞・一遍の傑出したこの「大慈悲」の実践は、現代社会における反‐差別の運動にとって、かけがえのないモデルを差し出している。