表題番号:2020C-221 日付:2021/04/08
研究課題堆積物を用いた沿岸域における基礎生産者の時系列評価
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 講師 廣瀬 孝太郎
(連携研究者) 大阪市立大学 特任講師 中村 英人
(連携研究者) 島根大学 特任助教 安藤 卓人
研究成果概要

有史時代の自然・人為環境変化とそれを駆動するシステムを明らかにするために,島根県−鳥取県の中海湖底からコア長約1.7m3本のボーリングコアを掘削し,マルチプロキシー的アプローチ(岩層・放射性同位体層序,有機・無機元素組成,動物・植物微化石群集組成,有機化合物(バイオマーカー)組成など)により水域環境の歴史的変化を明らかにした.

137Cs210Pb14C年代測定に基づき構築された年代モデルにより,堆積物は過去600年間に堆積したと推定され、その堆積速度は0.240.38cm/yrの範囲であった.

CNS分析結果から,湖の有機環境変化は,17世紀中頃に斐伊川や飯梨川の流路変更,19世紀後半以降の工業化や人口増加に伴う栄養塩の急激な増加,および中海と外海をつなぐ水道部の埋め立てによる閉塞性の増加などの人為的汚染・改変が寄与していることが明らかになった.

近代以降の中海湖底堆積物の重金属元素濃度は,鉱業活動や金属の国内需要の歴史的変化と極めて明瞭な一致を示した.すなわち,人為負荷によるCu18世紀後半から20世紀初頭に意宇川上流で操業した宝満山銅山に,Mo20世紀初頭から中頃を中心に操業していた斐伊川上流の大東鉱山に由来することが明らかになった.また,中海における重金属汚染(CuPbZnAs)に関する全体的な傾向は,湖の富栄養化や重金属需要の全国的な傾向に先立って見られた.ほとんどの重金属負荷は1970年頃にピークを迎え,高度経済成長後の産業活動の衰退と汚染物質の排出規制により全般的に減少した.しかしながら,PbZnAsInは最近になって増加傾向を示す.

今後は,国内外のどのような排出源が寄与しているのかを,その負荷プロセスとともにより詳細に明らかにしていきたい.また,古環境と現在整理中の生物群集化石群集を相互に検討し,湖が辿ってきた水域システムの変化についても解明したい.