表題番号:2020C-161 日付:2021/03/18
研究課題『語絲』・『京報副刊』と周氏兄弟
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 教授 小川 利康
研究成果概要
本年はコロナ禍のもとで予定していた海外で国際学会での発表はすべてキャンセルとなった。また図書館での資料閲覧も制約され、またオンライン授業への対応に追われるなか、2019年度までに発表した論文を書き直す作業に集中した。その結果として採用されたのが別紙の論文2本であった。
まず1本目は一昨年の2019年7月に人民大学において発表した「剖析《人的文学》的思想骨骼——藹理斯与新村主義的影響」を改稿したもので、これまで誰も明確に指摘してこなかった「人的文学」の核となる霊肉一致の理念がやはりハブロック・エリスに由来するものであることを文中の文言を緻密にトレースすることによって裏づけたものである。実は拙著『叛徒と隠士 周作人の一九二〇年代』でも指摘したのだが、当時のハブロック・エリスがイギリス神秘主義の影響下にあった点については説明が不足していた。この方面の影響は従来ほとんど指摘されてこなかったので、中国でも今後一定程度の注意してもらえるだろう。なお、この論文はコロナ禍後に復刊された『長江学術』に掲載され、そののち人民大学の複印報刊資料J3(《中国现代、当代文学研究》に全文転載された。
次に2本目は一昨年の2019年9月に湖南大学に招かれて魯迅学会で発表した「周作人与大杉栄──甘粕事件前後為中心」を改稿したものである。中国では必ずしも重視されない関東大震災を契機に露呈した日本のファシズム化の危機に周作人が明敏に反応していたことを甘粕事件への反発を通して考察したものである。文中では周作人に関東大震災の詳細を知らせた『北京週報』記者・丸山昏迷についても触れたが、丸山が李大釗とともに日本社会主義者同盟のメンバーであったことは余り知られていない。丸山が編集発行したガイドブック『北京』(1921年)が2016年に翻訳刊行されたこともあり、今後二〇世紀初頭の中国で活動した日本語メディアについても関心が深まることを期待したい。