表題番号:2020C-117 日付:2021/03/24
研究課題浮世草子求板本における改題・改刻と出版事情の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 教育・総合科学学術院 教育学部 教授 中嶋 隆
研究成果概要
  貞享3年2月に、京・永田長兵衛と江戸西村半兵衛二書肆相版で刊行された『好色伊勢物語』は元禄7年に『いくのの草子』と改題出版された。版元は京「永田調兵衛」単独版である。さらに同じ書名ながら奥付の刊年を削り書肆名「永田調兵衛」のみを残した改刻本がある。『好色伊勢物語』『いくのの草子』の主版元は「永田長(調)兵衛」なので求板本ではないが、求板本同様に、巻1の2.3.6.15丁の版木が元禄7年版では欠落しており、刊年を削った版では新しい版木に替えられている。詳細は省くが、装幀から考えて、刊年を削った本は享保ごろ刊行されたと推定する。「長兵衛」を「調兵衛」と屋号を替えているのは代替わりに伴う変更であろう。管見では元禄四年以降「永田調兵衛」が用いられている。また初版本で相版元となった「西村半兵衛」は元禄9年以降出版物が見られなくなるが、元禄7年には書肆としての活動をまだ続けていた。通例では、版木を買い取った書肆が求板本を改刻する場合には、板木の痛みを修訂する場合が多いのだが、本書のケースは、初版本からわずか8年後に刊行された改題本の巻1の4丁分の版木だけが欠落し、そのまま改題本として刊行され、さらに享保期に版木が補われているという不自然さが目立つ。私は4丁分の版木は「西村半兵衛」の留板だったのではないかと推定している。