表題番号:2020C-087 日付:2021/02/03
研究課題若者の高齢者差別を形成する認知的傾向に関する検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 福川 康之
(連携研究者) De La Salle University Manila Associate Professor Maria Guadalupe Salanga
(連携研究者) University of Glasgow Researcher Zyra Evangelista
(連携研究者) De La Salle University Manila Associate Professor Darren Dumaop
研究成果概要
 Stereotype content model (Fiske et al., 2002)によれば,人は高齢者を「憐み」や「慈しみ」の対象として判断する傾向にあるが,この背景には,高齢者は「温厚だが無能」であるというイメージ,すなわちステレオタイプ(偏見)が働いているという.そこで本研究では,若者の高齢者に対するイメージと無意識的な偏見との関連について検討した.
方法:フィリピンの大学生69名(男性22名,女性47名,18~21歳)を対象とした調査と実験を行い,得られたデータを分析した.高齢者に対する潜在的偏見傾向はImplicit Association Test (Greenwald et al., 1998)を用いて測定した.高齢者に対するイメージは,「温厚さ」「有能さ」の各次元について,それぞれ0(冷たい/無能)~10(温かい/有能)のリッカート尺度で評価を求めた.
 結果:IATのd値を基準変数とし,「温厚さ」,「有能さ」,および両者の交互作用項を説明変数とする重回帰分析を行った.この結果,「温厚さ」の有意な主効果が認められ,高齢者が温厚であるというイメージを有する者ほど,高齢者に対する潜在的な偏見傾向が強いことが明らかとなった(p <.001).さらに,「温厚さ」と「有能さ」の交互作用行も有意となった(p < .001).そこで下位検定を行ったところ,高齢者が温厚であるというイメージが高齢者に対する潜在的な偏見傾向を高める効果は,高齢者が有能であるというイメージを有する場合に,とりわけ強く認められることが明らかとなった.
 結論:本研究の結果は,高齢者への態度に対しては,「有能さ」よりも「温厚さ」の方が強い影響を与える,という先行研究の知見を支持するものである.この結果を進化心理学の観点から考えると,個人の適応(生存)に対しては,他人が自分にとって「良い対象か悪い」対象か」という「温厚さの判断」が,自分にとって「役に立つ対象であるか否か」という「有能さの判断」よりも重要であることを示唆するものである.