表題番号:2020C-054 日付:2023/09/09
研究課題持続可能性と水への権利
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 大学院法務研究科 教授 中島 徹
研究成果概要
本稿の目的は、直接的には「民意」と代表者の乖離等の代表制民主主義の機能不全の原因の一端を考察することにあるが、本特定課題は「持続性と水への権利』であるので、一見無関係なテーマであるように思えるかもしれない。しかし、日本の水道制度ができた明治期における議会制度のゆがみが、実は水道制度の構築に影響を与えていることから、その議会制度のゆがみがどのように生じたかを考察することが必要と考え、「代表制民主主義と『民意』を遮断する法制度」(判例時報誌掲載)を執筆した。代表民主主義の根幹は選挙にある。その選挙制度が『民意」を反映できないものとなっていることはしばしば指摘されてきた。その際言及される「民意を遮断する法制度」は、第一に一票の格差を生む選挙区割り等の選挙制度であるが、本稿で取り上げたのは、戸別訪問禁止という他国では現在ではほとんど例を見ない「民意の遮断制度」である。長年、買収の温床とか選挙民の迷惑論、あるいは最近では元最高裁判事の伊藤正巳による選挙のルール論などにより規制が正当化され、現在もその制度は残っている。しかし、代表者が選挙民と直接に意見を交わすことが許されないのは、憲法21条の表現の自由保障との観点からみて大いに疑問であることもまたすでに数多くの論者が指摘してきたところである。本稿はそれに屋上屋を重ねることを目的とするものではなく、実は明治期においては戸別訪問禁止は全く別の観点から導入されたものであったことを当時の記録をもとに論証したものである。一言でいえばそれは、代表者を愚民とみなす考え方に基づいていた。戸別訪問禁止を正当化する買収の温床論は、周知のように選挙民を愚民視するものであるが、明治期においては、それとは全く逆の観点から選挙運動規制が論じられ、制度化されたのであった。本稿はこの点を論じることで終わっているが、実はそのように作られた当時の議会によって日本の水道制度が作られる。そのことによりゆがめられた水道制度の問題点を明らかにすることが次の課題である。