表題番号:2020C-046 日付:2021/03/23
研究課題私文書偽造罪におけるいわゆる代理名義の冒用について
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 法学部 教授 松澤 伸
研究成果概要

 代理名義を冒用して私文書を作成した場合、私文書偽造罪が成立するか。これは、私文書偽造罪における代理名義の冒用として知られてきた古典的な論点である。代理名義の冒用は、有形偽造であるという点で、学説・判例は一致している。むしろ、有形偽造の定義は、この議論から出発しているとさえ言ってよい。すなわち、有形偽造とは、文書の作成権限のない者が権限を逸脱して文書を作成することである、といわれるが、代理権を冒用することは、端的に言えば、文書の作成権限の冒用であるから、これが有形偽造となるのは、当然のことでもある。

 では、この問題は完全に解決済みか、というと、そうではない。作成者が作成権限を逸脱して文書を作成している点では、代理名義の冒用が有形偽造になるということは、明快である。すなわち、この論点における作成者は、代理権を有していない作成者ということになる。しかし、名義人は誰かという問題になると、判例・学説は一致していない。そして、近時の私文書偽造罪の議論において重要なのは、むしろ、名義人の特定である。

以上の理解をもとに、本研究では、民事法の議論を参照しつつ、このような場合の名義人については、代理人が名義人として把握されるのが一般的であることを前提とし、新たな理論構成を検討した。