表題番号:2019R-031 日付:2020/05/14
研究課題螺旋折絆創膏による簡便な体内の封止システムの開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 教授 宮下 朋之
研究成果概要
近年,内視鏡下外科手術は低侵襲な治療方法として注目されている.この手術では,身体に設置したトロッカーを介した内視鏡の視野下で,体内組織の治療やその後処置(組織接着,止血, 癒着防止等)を行う.通常の開腹手術では,可吸収性のシート剤を貼付することで簡便な後処置を行うことが多い.しかし,内視鏡下外科手術ではトロッカー内部の弁や作業空間の狭さから, シート剤を対象患部に送達するには工夫が求められる.
代表的な工夫として,円筒状に丸めて小さく収納する方法,硬度のあるものと共に送達する方法等が挙げられる[1].しかし, 対象組織以外との接着の危険性や異物回収の必要性があり,確立された方法はない.そこで、本研究では,折り畳みによる体内貼付シートの収納を検討し, 優れた収納性と展開性を持つ内視鏡下外科手術での利用法を 提案することを目的とした.
(1) 提案技法
体内で対象組織以外との接着を防ぐには,効率の良い収納方法が望まれる.従来の円筒状に丸める方法では,円筒の高さ方向の収納ができない.そこで,全方向に収納可能な螺旋折を体内貼付シートに施すことを提案した.螺旋折りを施した膜面は,小さな円筒形状に収納され,両端を引張り展開する.螺旋折りを施した膜面の簡便な展開が可能な4 本脚アプリケータの設計をした.体内貼付シートを紙の内部に重ね折りして,アプリケータと紙を接続することで, 展開時にシートのみを分離することとした。
 
(2) 展開実験と寸法最適化
展開実験では,滑車に吊るした荷重によりアプリケータの糸に張力を付加して,4本脚及び体内貼付シートを展開させた. シートが紙から分離するときの展開率と引張力を測定した.体内貼付シートは可吸収性止血剤の SURGICEL®(Johnson & Johnson)を使用した.
螺旋折りを施す膜面の角数,収納した際の相対高さ,アプリケータの筒から展開部までの突出し長さを設計変数として実験計画法を実施した.得られた実験点に対して 625[mm2 ],
1250[mm2],1875[mm2]の3種類の面積でそれぞれ3回の実験を行い,その平均を元に最適化を実施した.目的関数は収納体積,収納可能面積(筒の内径に収納できる面積の最大値),展開率,引張力,総突出し長さ(突出し長さと脚長を合わせた長さ) とした.
展開実験の結果,収納体積と展開率・収納可能面積,引張力と総突出し長さの間にはそれぞれトレードオフの関係があった.そのため,それぞれを満足化する条件として四角形,相対高さ 34.0%,突出し長さ 23.0[mm]を選定した.この条件で展開実験を実施した結果,収納体積 538[mm3],展開率 69.8%,引張力 558[gf]を得た.応答曲面による予測値との誤差率はそれぞれ 1.76%,3.98%,2.88%であり,正常に応答曲面の近似と実験が実施されていることが確認できた.面積が 1875[mm2]の時の折り目と展開実験結果を以下に示す.

体内貼付シートを螺旋折りにより収納し,4本脚アプリケータにより展開させる方法を提案した.優れた収納性と展開性を得るために,螺旋折りのパラメータとアプリケータの寸法を展開実験の結果によって最適化できた.