表題番号:2019Q-028 日付:2020/04/03
研究課題人工細胞を指向したバイオシステムの無細胞合成系の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 大学院先進理工学研究科 教授 上田 卓也
研究成果概要
人工細胞の構築は合成生物学の目標の一つであり、再構築型無細胞タンパク質合成系PURE systemはその基幹システムとなることが期待されている。しかし、PURE systemを人工細胞へと発展させるためには、PURE systemが増殖し、またエネルギーを生産するシステムへと改良する必要がある。そのために、DNAからのリボソームの合成システム、転写系合成したtRNAによるPURE systemの構築、エネルギー生産細胞の合成、の三つのプロジェクトを推進し以下の成果を得た。大腸菌の小サブユニットについては、すでに個別精製したリボソームタンパク質とrRNAからの再構成に成功している。本課題では、リボソームタンパク質をDNAからPURE systemにより転写翻訳で合成し、rRNA存在下で30Sサブユニットとしてアセンブルさせ、その翻訳活性を解析した。転写合成するrRNAのanti-SD領域を人工配列に置換し、新規に再構成された30SとPURE system内の天然の30Sを区別した。解析の結果、新規に再構成した30Sサブユニットは翻訳活性を有することが示された。この結果は、Communications Biologyの投稿し受理された。また、50Sサブユニットについては、個別精製したリボソームタンパク質と23SrRNAと5Sからの再構成を行った。ショ糖密度勾配による超遠心による解析から再構成されていることが示され、また50Sサブユニットが活性は低いものの翻訳活性を有していることが示された。現在は、DNAから50Sサブユニットの合成を試みている。大腸菌の開始tRNAと20種類の伸長tRNAを試験管内転写系によって合成した。これらのtRNAは、天然のtRNAよりも活性は低いものの、翻訳活性を有していることが示された。この結果は、Nature Communicationに投稿し、現在formal peer review中である。転写rRNAに酵素的に修飾塩基を導入することで翻訳活性を向上させることに成功した。また個別の転写tRNAについてコドンの誤読度の評価を行い、高い忠実性を有していることが示された。バクテリオロドプシンとATP合成酵素をPUREで発現させたエネルギー(ATP)生産人工細胞の構築については、2019年3月にNature Communicationに発表している。このシステムはバクテリオロドプシンとATP合成酵素のF0部分のみをPURE systemでDNAから合成しリポソーム上に挿入したものであり、ATP合成酵素のF1部分はPURE systemでの発現量が不十分であり、天然のものを用いていた。本年度は、PURE systemの翻訳活性をさらに改善し、ATP合成酵素のF1部分もDNAからの合成が可能であることが示唆された。