表題番号:2019Q-003 日付:2020/05/25
研究課題最高裁判例における「制度的思考」の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 政治経済学術院 政治経済学部 教授 笹田 栄司
研究成果概要
判例の基調である「司法消極主義」を探るには、憲法制定に由来する大陸法系から英米法系への転換の内実を検討する必要がある。その意味で、最高裁は1937年の「憲法革命以降のアメリカの憲法観・司法観を一貫して実現しようと試みてきた」とし、「司法消極主義」の積極的評価を試みる見解(山本龍彦)には疑問が残る。制度の転換に関して、グライフは、「過去の制度的要素は、新たな制度を選択する際に、自らがその中に包括されるような選択がされるように、そのプロセスに偏向を加える」と主張する。初めて違憲審査を担当した最高裁判事は明治憲法下で大陸法系の教育を受けていたのであり、戦後の違憲審査制受容プロセスからは、「憲法革命以降のアメリカの憲法観・司法観」とともに「大陸法の系譜」も判例から見て取れる。その象徴が、卓越した英米法的知見を持ち、一方で、(大陸法系の)伝統的行政訴訟法理論を追究した中村治朗(最高裁判事)であった。そして、若き中村の前に立ち塞がったのがドイツ民訴法学を基礎に据えた兼子一であった。わが国の司法消極主義は複雑なプロセスを経て形成されたのである。