表題番号:2019C-705 日付:2020/04/10
研究課題触診術の定量的評価及び機械システムによる支援方式に関する研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 教授 宮下 朋之
研究成果概要
本研究では, 臓器の機械的特性をオンライン 同定するシステムを構築することを目的と する.ここで,以下二つの点に着目する.一点目は, 実臓器の形状から実環境に適した有限要素臓器モデルの構築である. 多くの従来研究では,長方形の単純なモデルを扱っているが, 本研究では,実際の豚肝臓から形状を生成したものを用いる. 二点目は臓器の材料特性 を求めることにより,正常部と腫瘍の両方を 同定することである.
以上の目的を達成するために,本論文では, ,(肝臓モデルの数値実験, ,( ファントムを用いた物理実験の二つの実験を実施する.以下に各実験の概要を示す.
(1)肝臓モデルの数値実験
仮想環境上で肝臓の有限要素モデルに対して外力を与え,予め仮定した材料特性を推定する.
(2)ファントムを用いた物理実験
提案する手法の妥当性を確認するために,ファントムに対して外力を与え,測定した材料特性と推定された材料特性を比較する.
肝臓モデルの数値実験では,肝臓の材料特性を同定するために肝臓の有限要素モデルに粒子フィルタを利用したデータ同化を適用した.Mooney-Rivlinの超弾性モデルを利用し,5つの材料定数を推定した.肝臓の有限要素シミュレーションモデルに観測した変位データと肝臓の初期条件を定義し,状態空間モデルに対して不確実性を伴う部分に確率密度関数を加え,粒子フィルタを用いて予測・フィルタリングを行い,尤度関数を最大とするパラメータを推定値とした.予め定義した材料特性を推定する双子実験を行い,材料特性は予め定義した材料特性に収束したため,粒子フィルタを用いたデータ同化を臓器の材料特性同定に優れる手法として決定した.
 また,提案した手法の妥当性を確認するために,ファントムを使用した物理実験を実施した.臓器モデルとして,腫瘍を内包した直方体ファントムを利用し,正常部と腫瘍部(直径20[mm]の球体)で弾性率を変化させ,それぞれの弾性率を推定した.ファントムを変形させるために,球体で鉛直に押し込み,3つのロードセルで力を観測した.また,レーザ変位計で押し込み量の変位データを取得し,ファントムの変形・力データからシミュレーションと融合することで,弾性率を推定し,自動的に弾性率を逐次更新するシステムを構築した.本システムによって同定された弾性率とレオメータによって測定された弾性率を比較した.データ同化によって推定された弾性率は正常部で15.85[kPa],腫瘍部で58.50[kPa]となった.一方,測定された弾性率は正常部で16.61[kPa],腫瘍部で53.37[kPa]となった.正常部と腫瘍部でそれぞれ相対誤差は4.58[%],9.61[%]となった.