表題番号:2019C-656 日付:2020/03/30
研究課題モダニズムにおける<脱中心化>-文学・芸術における<野生の思考>の系譜
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 法学部 教授 谷 昌親
研究成果概要

 2019年度の研究においては、戦後まもなくにおこなった二度のアンティル諸島への旅をとおしてミシェル・レリスが反植民地主義の立場を強めたこと、そして、マルチニック、グアドループ、ハイチの文化と接するなかで、他者を探求しつつ、自分自身を見つめなおそうとしたことを明らかにした。この自己と他者の相関関係は、もともとさまざまな人種が混交しているアンティル諸島の複合的文化と響き合うものがあり、レリス自身が〈クラッシュ〉と呼ぶそうした異文化の衝突は、シュルレアリスムの美学にも通じていた。さらに、そのような問題意識は、シュルレアリスムにならって「客観的偶然」にこだわり、他者との遭遇と自己の発見をその作品で求めた映像人類学者のジャン・ルーシュにも見出せるものである。

 また、フィリップ・スーポーの小説『パリの最後の夜』の翻訳を終わらせ(出版は来年度の予定)、その翻訳作業を通じて、シュルレアリストにとってパリの街がまさに他者との出会いの場であるとともに自己の探求につながる場であることを再確認した。さらに、ルーセルの『ハバナに…』の翻訳も並行しておこない、ルーセル独特の並列と入れ子の構造についての考察も続けている。

 一方、レリスがナレーション原稿を書いた映画『闘牛』について、その批評を書いたアンドレ・バザンとレリスに共通する「プレザンス」へのこだわりを確認し、サルトルやブランショの思想との関係も探った。そうした「プレザンス」をめぐる問題を美学的な観点から検討するために、ディディ=ユベルマン、さらには、レリスやジル・ドゥルーズとも比較しつつ、バルトが唱える「プンクトゥム」について考察した。これもまた、自己の探求と他者の探求が交錯するなかで生じてくる問題と言えるのである。

  そのほか、旅や移民など、越境のテーマと関連する映画や音楽についてのシンポジウムに参加するなかで、やはり〈脱中心化〉についての考察をおこなった。