表題番号:2019C-577 日付:2020/04/03
研究課題遺伝暗号の起源の解明の研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 大学院先進理工学研究科 教授 上田 卓也
研究成果概要
遺伝暗号表の成立過程の解明は、生命の起源を解き明かすことである。本課題では、清水幹夫によって提唱されたtRNAのアンチコドンとディスクリミネーター塩基がC4Nコンプレックスを形成し、この複合体上のポケットでアミノ酸が認識・選択されることで遺伝暗号が生まれたとするC4N仮説を実証することを目的としている。いくつかのアミノ酸と対応するアンチコドンの分子模型を作製し、その相互作用を検討したところ、相互作用は可能であるが、水溶液中では、水分子の存在により容易に減弱される弱い相互作用であり、アミノ酸とRNAのみでは立体的な相互作用が困難であることが明らかとなった。この点については、水分子を排除し安定な環境を与える足場の分子を想定することで克服できると考えた。さまざまの分子を検討したが、以下の三点からリン酸のポリマー(ポリリン酸)が足場分子であるという作業仮説を持つに至った。①アミノ酸やヌクレオチドの脱水重合反応を促進しうる強い脱水分子である。②アンチコドンのリン酸部分に対して強く反発すること、また③アミノ酸のアミノ基を外側に固定すること、でアンチコドンの塩基部分とアミノ酸の相互作用を安定化しうる。さらに、現在のタンパク質合成系では、アミノ酸はATPのトリ(ポリ)リン酸部分の加水分解と共役してアミノ酸がAMPと共有結合を形成することで活性化されることを考えると、原始タンパク質合成系では、ポリリン酸は単なる安定化するのではなく触媒的に機能していた可能性がある。以上の考えに基づいて、ポリリン酸存在下での核酸によるアミノ酸の選択と重合からなる原始タンパク質合成系のモデルを構築した。ポリリン酸の生命の起源への関与を実験的に検討するために、現在さまざまな鎖長のポリリン酸を作製もしくは購入し、ポリリン酸による原始タンパク質合成系の実験的再現を進めている。これらのポリリン酸存在下でのアミノ酸の重合反応の最適条件を現在検討している。