表題番号:2019C-496 日付:2021/01/08
研究課題刑法における故意の認識対象の解明
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 法学学術院 法学部 助手 小池 直希
研究成果概要
本研究では、刑法における故意の認識対象およびそれと表裏をなす錯誤における符合の限界について、とりわけ構成要件の故意規制機能の観点から分析を加えた。故意の成立にとって、構成要件該当事実の認識が不可欠であることについては広く見解の一致をみているものの、従来の学説においては、その根拠が十分に検討されてこなかったことから、種々の例外が認められてきた。また、「錯誤は故意の裏面である」との命題には一定のコンセンサスがあるものの、実際には、錯誤論の文脈で貫徹されていないように見受けられる。
私見によれば、故意論と錯誤論は厳格に一致すべきであり、また、認識が不要な構成要件要素があるとすれば、その理由について論理的な説明を要する。構成要件の故意規制機能の根拠として従来示されてきた、「罪刑法定主義の主観面への反映」、「一般予防」、「提訴機能」という観点ではこれを説明することは困難であり、責任主義の観点から不法構成要件要素のすべてに責任連関が及ばねばならないというべきである。錯誤論においても、故意の認識対象に対応して、不法構成要件の符合がその基準となる。
以上のような基準は、近時問題となっている、詐欺罪と窃盗罪の符合の可否や特殊詐欺における故意の認識内容にも有益な示唆を与えることが期待される。
本研究の成果は、早稲田法学95巻4号・96巻1号に掲載された。