表題番号:2019C-361 日付:2020/02/13
研究課題同肢内筋間の機能的連携の解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) スポーツ科学学術院 スポーツ科学部 教授 彼末 一之
研究成果概要

人は手足の多くの筋を制御して所定の運動を実現している。そのためには個々の筋を別々に制御するのではなく、機能的につながりのある筋同士をまとまったモジュールとして制御することで、自由度を減らすという戦略をとっている。例えば筋の収縮・弛緩は他肢の皮質脊髄路興奮性に影響を及ぼすことが報告されている.つまり、筋の収縮時には他肢の筋(しかも同名筋)の活動を促進し、弛緩時には抑制する。それに対応して、他筋を支配する皮質脊髄路興奮性も促進、抑制される。しかし,筋の収縮・弛緩が同肢内他筋の皮質脊髄路興奮性に及ぼす影響は明らかになっていない.本研究は,経頭蓋磁気刺激法(TMS)を用いて肩関節外転筋(三角筋:DM)の収縮および弛緩が同肢内の手関節筋,指関節筋の皮質脊髄路興奮性に与える影響とその部位差を検討した.健常な成人男性24名は収縮している肩関節外転筋を音合図に合わせて弛緩する課題を行った.音合図後に6つのタイミング(501502503505001000ms)で手内在筋第一背側骨間筋,前腕筋橈側手根伸筋の一次運動野支配領域にTMS刺激した.これにより得た運動誘発電位の振幅値により皮質脊髄路興奮性を評価した.DMの収縮および弛緩時,第一背側骨間筋の運動誘発電位振幅値は安静時と比べ有意な変化が認められなかった.一方で,橈側手根伸筋の運動誘発電位振幅値はDM収縮時には安静時と比べ大きな値となり,弛緩に伴い減少した.これらの結果より,肩関節外転筋の収縮・弛緩は,手内在筋と前腕筋の皮質脊髄路興奮性に異なる影響を及ぼすことが明らかになった.このことは前腕筋は肩の筋と協調して腕(手)を目的の場所に運ぶことが主たる機能であるのに対し、手内在筋はその運ばれた場所で手が様々な動作をするときに働くという機能的な違いを反映しているものと推測される。