表題番号:2019C-175 日付:2020/04/20
研究課題CFRTP射出成形材の衝撃エネルギー吸収特性
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 基幹理工学部 教授 川田 宏之
研究成果概要
繊維強化熱可塑性プラスチック(Fiber Reinforced Thermoplastics;FRTP)は,成型が容易で生産コストが低く,圧縮荷重負荷時に逐次破壊を伴う場合に高いエネルギー吸収性能(EA)を示す特徴があり,量産車への適用に期待が持たれている.過去の研究では,破壊時のEA性能に複合材料の繊維-樹脂界面強度や母材樹脂の応力-ひずみ挙動等が影響することが報告されている.
本研究では,繊維-樹脂界面強度や母材樹脂の変更による靭性の違いがFRTP 射出成型材の衝撃EA 性能に及ぼす影響を調査することを目的として,靭性を変化させたFRTP 射出成型材に対して逐次破壊試験による衝撃EA吸収挙動の調査を行った.また,物性値との相関を調査するために圧縮特性取得,ModeⅠ破壊靭性取得を行った.
供試材として,母材樹脂にポリアミド(PA)66を用いたNormal材,PA12を用いた高じん性材,Normal材作成時のサイジング剤に不適合なものを適用した低じん性材の3種類として,それぞれ破壊じん性値の異なる射出成型材を採用した.全ての供試体の強化材にはE-glass 繊維を用いた.

逐次破壊時に衝撃EA性能が温度に依存しない現象を観察するため,逐次破壊試験を実施した.試験速度は9~10m/s,試験温度は-30℃,23℃,90℃,130℃とした.試験はスプリットホプキンソン棒(Split Hopkinson Pressure Bar;SHPB)法試験機を用いて実施した.試験により得られた荷重・応力-変位線図より,低じん性材及びNormal材の90℃では逐次破壊中の平均応力が試験温度の影響をあまり受けなかったのに対し,高じん性材(90℃)では平均応力が大きく低下する結果が得られ,Normal材(130℃)でも同様の傾向が確認された.また,高じん性材やNormal材の高温雰囲気下では荷重の変動が比較的滑らかであったが,低じん性材やNormal材の低温雰囲気下では荷重の振動が確認された.

高じん性材や高温条件の試験の際に振動が発生した原因は,高じん性材やNormal材の高温条件では延性的な破壊が逐次破壊の大きな要因を占めるのに対し,低じん性材やNormal材,高じん性材の低温条件では脆性的な破壊が逐次破壊の大きな要因となったためだと考えられる.

また,これまでの研究においては,温度変化に伴う強度とじん性の変化が相殺することでEA性能が温度に依存しない現象が発現すると示唆されている.しかし,本研究では高温条件の際にSCSの低下が確認された.このことは,温度に依存しないEA現象が発現するのは限られた温度領域内のみであることが示唆された.さらに,90℃での試験結果を比較すると,母材樹脂を変更した供試体の試験結果においてSCSの低下が確認された.この現象が生じる温度領域は母材樹脂の特性により変化する可能性が示唆された.

加えて,これまでの研究および本研究の逐次破壊試験後の試験片観察より,試験温度に依存した破壊形態が発現し,温度上昇に伴い逐次破壊時の破片サイズが大きくなることを確認している.しかし,破壊形態が変化する温度には上限があり,ある温度を超えると破壊形態には大きな変化が生じなくなると考えられる.そのため,破壊形態変化の上限を超えた高じん性材の高温雰囲気下では強度と靭性のバランスが崩れ,SCSが低下したと考えられる.