表題番号:2019C-145 日付:2020/02/13
研究課題周作人と魯迅―五・四新文化運動時期における進化論受容の差異
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 商学学術院 商学部 教授 小川 利康
研究成果概要
数年来、周氏兄弟(魯迅と周作人)と雑誌『新青年』グループとの関係を新資料で検証することで、周氏兄弟間の思想的差異を解明することを目指している。本年度の研究では、兄弟二人の「進化論」受容の差異に重点を置いて研究を行った。魯迅に限らず、周作人も、明治末期の日本で広く読まれていた丘浅次郎『進化論講話』(1904年)から影響を受けたことが従来の研究(李冬木)で明らかにされている。丘の進化論には当時優勢を占めていた社会ダーウィニズムが色濃く反映されており、その影響は周氏兄弟にも看取される。留学より帰国後、周作人が優生学に強い関心を寄せるのも、弱者たる漢民族の改造(種族革命)によって裏打ちされた確固たる信念によるものであった。この意識は『新青年』での「随感録」などの言説でも明瞭に示されている。だが、周作人は1919年以降、武者小路実篤の「新しき村」に共鳴し、その影響のもとで、クロポトキン『相互互助論』に触れて、生存競争を肯定する進化論を否定するに至る。これに対して、兄魯迅はクロポトキンの影響をほとんど受けておらず、晩年まで進化論に対して肯定的であった。