表題番号:2019C-091
日付:2025/07/15
研究課題18世紀イギリス議会史-採決記録から見た議員の投票行動
研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 文学学術院 文学部 | 教授 | 松園 伸 |
- 研究成果概要
- 18世紀イギリス下院の議員の投票行動については、公式の史料が無く貴族、下院議員が残した書簡、私文書に拠るしかない。本研究では「大英図書館」British Library、スコットランド文書館Scottish Archives of Scotland,スコットランド国立図書館 National Library of Scotland, 国立文書館The National Archives, レスター文書館Leicester Record Office, ノーサンプトン州文書館Northampton Record Office, ハートフォード州文書館Hertford Record Officeなど公的機関で史料を渉猟するとともに、長年史料について情報提供をしていただいているホープトン伯爵文書 (Earl of Hopetoun papers)、アソル公爵 (Duke of Atholl papers), ハミルトン公爵(Duke of Hamilton papers) など個人所有の貴族文書も十分活用することができた。これらの個人文書には議会での「採決記録」(division lists) が含まれている。これらの採決リストは個々の議員などの見聞に基づいているので、史料の信頼度は必ずしも高いとは言えない。しかし重要な法案、政治案件については同一の問題について複数のリストが存在している場合があり、史料の信頼度は格段に上がったと考えられる。本研究で調査した採決記録はいわゆる「長い18世紀」の下院採決記録である。 とくに名誉革命期については、王権の在り方、市民的自由、対外戦争の進め方、徴税問題、国債制度、銀行制度など政党が先鋭に対立する政治問題が多数見られ、未刊行の史料も多く閲覧することができた。また採決記録には運河、有料道路、土地問題など現代の目から見れば政治問題とは言えないイッシューも多く、18世紀当時の議員にとって「重要な政治案件」の概念が現在とは大きく異なっていることがうかがわれるのである。また18世紀も1720年代以降になるとwhig, tory を軸とした投票行動に明らかな変化が見られ、いわゆるCourt vs Country の枠組は明らかに浮き出てくる。またいわゆる採決リストではないものの、首相、有力閣僚が議会開会前に開催したPre-sessional meeting の記録は多く残されており、与党首脳が自派議員に本議会の目的を語り対立が予想される案件については取るべき行動を指示することが慣例になっている。pre-sessional meeting の記録はそのときどきの与党の強さを測る格好の史料であり、さらに今後も分析を続けていきたい。