表題番号:2018S-035 日付:2019/03/27
研究課題子どもにとっての戦争文化の受容と戦争文化に抗する福祉文化思想の基盤研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文化構想学部 准教授 阿比留 久美
研究成果概要
十五年戦争の間に発行された雑誌『少年倶楽部』から、子どもと戦争文化の関係を考察し、当時の庶民の経験と戦争文化を受容していく文化の内実を検証していった。
(1)雑誌の内容の変化-1931年の満州事変による日中戦争の開戦、1939年の国家総動員法施行など戦争の展開に即して特集や記事内容の変化がみられる。
(2)「のらくろ」シリーズ(1931年~1941年、田河水泡)に見る「軍隊」-当時子どもたちに絶大な人気を博していた『少年倶楽部』の「のらくろ」シリーズは、兵隊に対する憧れ、ナショナリズムや戦争文化の受容を醸成する流れを内包するとともに、軍隊が貧しい子どもにとって立身出世の唯一の手段でもあった時勢の限界や社会状況自体が福祉文化を否定するようなものであったことを示している。
(3)契機としての1939(昭和16)年-太平洋戦争が勃発した1939年から、明確に軍部の統制が強まり、文化の戦時体制化が急速に進展し、ページ数も減少していっている。一方で、そのような時期にも、大佛次郎「楠木正成」(1942~1946年)のように戦争の展開に左右されない連載も存在していたことも特筆すべき事項である。
戦争は質的にも量的にもユーモアやペーソスといった人間的感情にもとづく文化を貧弱化させ、個人の中にも社会の中にも戦争を受容させる文化を醸成していく。その一方で時局に影響されない文化発信や、戦争文化に抗する動きが随所にみられる点も見逃せない。どのような文化発信が行われていたかを深めていくと共に、戦争文化に抗する福祉文化がいかにして実現しうるものであるのかを明らかにしていくことを今後の課題としたい。