表題番号:2018K-432 日付:2019/02/01
研究課題宗教と共存する呪術:インドにおける比較民族誌的研究
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 本庄高等学院 教諭 齋藤 正憲
研究成果概要

「宗教と共存する呪術:インドにおける比較民族誌的研究」と題された本研究は本来、南インド・ケーララにおけるフィールドワークを計画していたが、諸般の事情により、調査地をスリランカに変更して実施された。結果、コロンボおよびその近郊において、合計9名の呪術師にインタヴューすることができた。なお、スリランカにおいては、男性の呪術師を「サミ」、女性のそれを「マニオ」と呼称する。サミ3名、マニオ6名に聞き取りをすることができたのである。

 とりわけ関心をひいたのは、あるサミによる「憑霊(憑依)」である。20分近くにもおよぶ憑霊において、サミは振頭をつづけ、全身あせまみれとなる。このような「通常意識の低下した状態」を自らつくり出しつつ、彼は憑霊を完遂する。いわゆる「トランス」と見做せる彼の呪術的実践は、その典型とも評されるであろう。

 その成巫過程においては、「祖父の死」というきかっけがあり、祖父が憑霊し、しかるのちに、ヒンドゥー諸神をも憑霊させることができるようになったという。近親者(父や母)が死去し、その「霊魂」の憑霊が成巫の契機となったのは、ほかのサミやマニオにも共通していた。つまり、スリランカの呪術師は「近親者の霊魂」を憑霊させるのであり、神や精霊(霊魂とは区別される)が介在する先行諸事例に照らして、特殊な事例であることが知れるのである。

 そして、取材できたサミ/マニオはすべて仏教徒であった一方、呪術的文脈において登場するのはヒンドゥーの神々である。現世利益はヒンドゥー、来世にかかわることは仏教という明瞭な棲み分け意識があればこそ、呪術と宗教が共存する状況が惹起されたのである。さらに、コロンボ市内においてすら、サミやマニオを見つけ出すことはそれほどたいへんではなかった。つまり、仏教とヒンドゥー教の棲み分け意識は、社会全体にひろく共有されているとみるべきだ。