表題番号:2017S-037 日付:2018/04/05
研究課題19世紀ロシアにおけるリアリズム小説の成立経緯
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 助教 粕谷 典子
研究成果概要
 本課題では19世紀後半のロシアリアリズム小説において、出来事の欠如と作中人物の心理描写とがいかなる関係にあるかを考察した。イヴァン・トゥルゲーネフとアントン・チェーホフの小説や戯曲はともに、プロットの核心をなす出来事が欠如していることが、これまでにたびたび指摘されている。とくにトゥルゲーネフの「大街道での会話」とチェーホフの「荷馬車で」は、どちらも主人公が馬車に乗って移動する場面を中心に構成され、主人公の言動は極端に制限されている。またプロットを大きく転換するような重大な出来事がなく、出来事の欠如の代表的な作例としてしばしば挙げられる。
 小説の意味作用の中核をなすような出来事が欠如しているにもかかわらず、この二つの作品がリアリズム小説としての説得力を持っているのは、両作品の心理描写の性質にあると考え、出来事の欠如と心理描写がどのような関係にあるかを分析した。その結果、 二つの作品はともにプロット上の出来事の重要性ではなく、語りの言説を話法ごとに分割して、それぞれに対応する心理の層を詳細に書き分けることで心理描写の説得力を持たせた重層的な構成があったと結論づけた。