表題番号:2017K-332 日付:2018/04/02
研究課題奴隷制と記憶―アメリカ南部文学における奴隷の記憶表象
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 国際学術院 国際教養学部 教授 大和田 英子
研究成果概要
 私たちは通常「記憶がある」という前提で元奴隷の記録を読む。しかし、世界(社会)認識のための知識が与えられていない人間の場合、時間・空間認識ができず、「記憶」には認識の軸となるべきものが存在しないことになる。Kevin Balesの『環境破壊と現代奴隷制』ではそのような認識の軸を持たない元奴隷の世界認識の一端が披露されている。ここで振り返ってみると、通常の「奴隷」「元奴隷」による物語や記録は明白な認識の軸を示しており、その知的活動のレベルの高さが疑念の的にもなってきた経緯がある。ハリエット・ジェィコブズがその自伝的物語が他人の手になるものではないかという疑いをかけられたのはその具体的な例でもある。逆に考えるなら彼(女)たちの物語では、白人主人階層の持つ体系的な「記憶」のまとめ方が展開されているといえる。その意味では、こうした「元奴隷」の記憶による表象は、そのほか多くの奴隷たちの世界認識とは異なっていた可能性があるのではないか。本研究では奴隷たちの、余白に溢れた記憶のすくい取られ方に対して仮説を構築した。