表題番号:2017K-301 日付:2018/04/06
研究課題アクチン骨格制御タンパク質Inka2の神経系における機能解析
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 教授 榊原 伸一
研究成果概要
ヒトを含め哺乳類の神経幹細胞は発生期~成体期まで継続的に脳内に維持され,放射状細胞突起や多分化能を特徴とする。一方,神経幹細胞から産生される増殖性 のニューロン・グリア前駆細胞は系譜がより制限されるが,目的の部位に向かう高い遊走能を持ち,神経発生過程だけでなく,神経変性病態での髄鞘再形成など 脳機能再生の観点からも重要な細胞である。しかし神経前駆細胞(NSPC)の形態維持や遊走メカニズムの分子的基盤には未解明な部分が多い。我々が神経系前駆細胞に発現する新規遺伝子として同定したinka2(MG46) Inkaドメイン(神経堤細胞の移動に機能すると考えられているInka1と類似の機能不明ドメイン)を持つことから、細胞移動などに関与することが推定される。inka2 mRNAは胎生期延髄,脊髄の腹側部脳室周囲のオリゴデンドロサイト前駆細胞に発現し,移動を終えたオリゴデンドロサイトでは発現が消失する。培養細胞にinka2を強制発現させると,アクチン線維の細胞内配置の異常が起こり,細胞形態が球状に変化し細胞接着の阻害や,過剰な数のフィロポディアが形成される。逆に,培養細胞でshRNAによるinka2発現抑制を行うと,細胞の遊走能は有意に増大し,細胞移動が促進されることから,Inka2はアクチン骨格の再編成を調節し,細胞形態変化や細胞移動の推進力を発生させるのに必要な新たな分子であると推定している。inka2と相互作用するタンパク質を解析するために、培養細胞及びマウスの脳タンパク抽出液からGSTプルダウンによりinka2結合タンパク質を単離プロテオーム解析したところ、細胞周期、増殖、分化などの多様なシグナル伝達に必要とされセリン/スレオニンホスファターゼが単離された。さらにshRNAによってinka2を抑制するとフォーカルアドヒージョン分子の一つであるパキシリンのライフタイムが減少することから、inka2フォーカルアドヒージョン動態の変化を介して細胞移動を調節する新たな分子であることが示唆された。