表題番号:2017K-201 日付:2018/04/05
研究課題福島県の里山に大気沈着した放射性Csの長期変動と環境調和型森林除染技術の開発
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 理工学術院 創造理工学部 教授 大河内 博
研究成果概要

2011311日に起きた東日本大震災に伴う福島第一原子力発電所事故 (以下,福島原発事故により放射性物質が大気中に放出され,陸域環境に沈着した.放射能汚染の影響は未だに続いている.福島県では森林が71 %を占め,農地は11 %,宅地と道路はそれぞれ4 %である.里地里山は都市周辺山地(12 %),中山間地(60 %),奥山周辺(19 %)に分布している.放射性物質による高汚染度地域は中山間地が多く,生活と密着していることから里山除染に対する地元の期待は強い.本研究では,里山に大気沈着した放射性セシウムの分布と動態を明らかにし,効率的な里山除染の方法と環境調和型除染技術を確立することを目的としている.


2012年から2017年まで,福島駅から浪江町山林内部までの各観測地点における空間線量率の走行サーベイを行っている.どの地点も経年的に空間線量率は減少しているが,最も離れた福島市内でも空間線量率が高い地点が存在している.このような地点で山林であり,除染が未だに行われていないことを示している.

浪江町南津島の小規模森林では,放射性セシウム濃度は内部のスギ/アカマツ混合林に比べて林縁部の広葉樹林で高濃度である.広葉樹林では生葉,落葉,表層土壌で減少傾向にあるが,2015年以降,生葉と表層土壌ではほぼ一定であり,放射性Cs濃度も両者でほぼ一致している.この地点では根が浅い広葉樹が生育しているため,表層土壌に蓄積した放射性Csを経根吸収し,内部循環していることを示している.森林内部のスギ/アカマツ混合林では,放射性セシウム濃度2013年には落葉に蓄積していたが,落葉の分解とともに表層土壌に移行し,2016年には表層土壌に蓄積していた.この地域ではスギやアカマツによる経根吸収は起こっていない.里山除染と行うには樹種に応じた手法の開発が必要であり,磁性プルシアンブルーナノコンポジットを用いた放射性Csの環境調和型除染技術開発に継続して取り組んでいる.