研究者所属(当時) | 資格 | 氏名 | |
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(代表者) | 教育・総合科学学術院 教育学部 | 教授 | 小林 和夫 |
- 研究成果概要
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キネティック定式化理論はLions, Perthame, Tadmor (1994)を出発点として、非線形保存型(双曲型)方程式の解の存在・一意性・正則性・漸近挙動などの研究に大きく寄与し、進展してきた。最近、Debussche, Vovelle(2010)はこの理論を確率的ノイズ項を持つ保存型(双曲型)方程式に拡張し、解の一意性・存在性を論じたが、一意性と存在性の議論は互いに独立であるなどの部分を改良、開発すべき点が多くある。キネティック理論は保存型(双曲型)方程式の研究では有力なものであることは確かである。そのような背景から、キネティック理論の確率版を発展方程式論で得られている収束・近似理論的手法と確率論的手法を融合して構築し、ラフパスにより駆動された確率保存型方程式の解の構造を明らかにする研究を行った。より正確に述べると、有界領域上での確率保存型方程式に対する初期値・境界値問題の解の存在と一意性の理論、すなわち、well-posednessの研究をキネティック理論と発展方程式論において開発されている理論・方法を融合するという視点から、従来の確率論的主体ではなく実解析・測度論的に研究を行った。具体的には次の結果を得た。
確率保存型偏微分方程式に対する初期値・境界値問題
du + div (A(u))dt = Φ(u)dW(t) in Ω×D×(0,T)
u(・,0)= u0(・) in Ω×D,
u = ub on Ω×∂D×(0,T)
を考える。ここで、初期条件u0(・)は確率変数ωに依存してもよいが、境界条件ub
は確率変数ωに依存しない関数である。この初期値・境界値問題に対してキネティック解を導入し、次のwell-posedness定理を得た。
定理. Dをd次元ユークリッド空間におけるリプシッツ連続な境界をもつ有界な凸領域とする。このとき、Debussche-Vovelleが方程式の係数関数A(u),Φ(u)に仮定した通常の条件の下で、一意的なキネティック解を持つ。さらに、u1(t), u2(t)をそれぞれ初期条件u1,0, u2,0, 境界条件u1,b, u2,b に対応したキネティック解とすると、つぎの不等式が成り立つ。
E‖u1(t) – u2(t)‖L1(D) ≦ E‖u1,0 – u2,0‖L1(D)
+ Mb∫‖u1,b(s) – u2,b(s)‖L1(∂D) ds,
ここで、∫は[0,t]上の積分を表し、Mbはu1,b, u2,b の∂D×[0,T]上の最大値に依存した定数である。