表題番号:2017K-093 日付:2018/02/17
研究課題高齢者差別(エイジズム)に関する国際比較研究を通じた行動免疫仮説の検証
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 福川 康之
研究成果概要
 怒りや嫌悪などの感情は,ヒトが進化の過程で備えてきた心の機能(行動免疫)であり,その究極の目的は,個体の生存や繁殖の成功度(適応)を最大化することである.行動免疫(Behavioral Immune System)は,白血球がウィルスを攻撃するのと同様に,個人の適応を脅かす(と判断された)異物や外敵を排除するための心的メカニズムであることから,時に外国人やマイノリティなど,自身と異なる属性を持つ対象や文化への否定的感情(差別意識)を発現させる可能性が指摘されている.本研究では,日本,フィリピン,マレーシアの高齢者差別(エイジズム)の特徴を比較し,さらには,エイジズム傾向と行動免疫との関連について検討することを目的とした.
 日比馬の3国で同一内容の質問紙調査を行い,計1,142名の大学生からデータを得た.これらのデータを分析したところ,以下の結果が示された.1)日本とフィリピンでは男性が女性よりもエイジズム傾向が強い.2)マレーシアでは,女性が男性と同程度のエイジズム傾向を有する.3)自国の高齢化率(全人口に対する65歳以上人口の割合)に関して,男女ともに,日本は過小評価,マレーシアは過大評価の傾向がある.フィリピンは3国の中で最も正確に自国の高齢化率を認識している.4)マレーシア女性は,自国の高齢化率を正確に理解している場合にエイジズム傾向が低い.5)マレーシアとフィリピンの男性では,行動免疫特性が強いほどエイジズム傾向が高い.
 以上の結果から,個人の行動免疫特性が少なくとも部分的にはエイジズム傾向と関連することが明らかとなった.さらに,高齢者や社会の高齢化に関する正確な知識を身に着けることが,行動免疫に起因する差別や偏見の発現を抑制する可能性も示唆された.