表題番号:2017K-091 日付:2018/02/27
研究課題語の音韻-形態対応の一貫性と形態親近性評定値との関係の検討
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 文学学術院 文学部 教授 日野 泰志
研究成果概要
語を読む作業を求められる語認知課題の成績は,個々の語の親しみの程度を反映する形態親近性評定値に強く依存する(e.g., Gernsbacher, 1984)。しかし,形態親近性評定値がどのような要因の影響を受けるのかという問題は,必ずしも十分に明らかになっているわけではない。そこで,本研究では,まず,天野・近藤(2003)の単語親密度データベースから,形態隣接語と音韻隣接語をそれぞれ1語以上持つ漢字語32,990語と仮名語3,405語を対象に,語の形態親近性評定値と音韻-形態対応の一貫性との間の関係について検討した。その結果,漢字語の形態親近性評定値は,音韻-形態対応の一貫性に依存するが,仮名語の形態親近性評定値は,音韻-形態対応の一貫性には依存しないことが明らかとなった。漢字語を聞き取る際,正しい綴りの情報を検索できるかどうかは,音韻-形態対応の一貫性に依存するため,一貫性が高いほど,語の聞き取り経験が形態親近性に効果を持つことになる。一方,仮名語は,モーラと文字の対応規則に基づいて容易に正しい綴りを検索できるため,仮名語の形態親近性は,音韻-形態対応の一貫性に依存しない可能性が高い。これらの仮説が正しいなら,漢字語を聞き取る際には,音韻隣接語が綴りの検索に貢献し,音韻-形態対応の一貫性が課題成績に効果を持つのに対して,仮名語を聞き取る際には,音韻隣接語が綴りの検索に貢献しないため,音韻-形態対応の一貫性効果も音韻隣接語数の差異による効果も観察されないはずである。そこで,聴覚刺激を使った語彙判断課題において,漢字語と仮名語の音韻-形態対応の一貫性効果の観察を試みたところ,確かに,有意な一貫性効果は漢字語に対してのみ観察された。さらに,仮名語を使って音韻隣接語数による効果の観察を試みたところ,音韻隣接語数による効果は認められなかった。