表題番号:2017B-291 日付:2018/04/06
研究課題生理活性ペプチドプロセッシングによる脳炎症制御機構
研究者所属(当時) 資格 氏名
(代表者) 人間科学学術院 人間科学部 教授 榊原 伸一
研究成果概要

炎症は、細菌やウイルスなどの異物を排除して生体の恒常性を維持するための防御反応である。しかし最近の研究から、体の中にもともと存在する細胞成分により引き起こされる非感染性の「自然炎症」と呼ばれる慢性炎症が多くの疾患の病態に深く関わっていることが明らかになりつつある。加齢と共に増加するガン、動脈硬化、肥満、虚血性脳疾患、アルツハイマー病などの種々の神経変性疾患、さらには老化そのものも、慢性的な自然炎症性の変化によって症状が進行する可能性が示唆されている。AttractinAtrn)はヒトを含む哺乳類で保存された遺伝子で、脳神経細胞や活性化T細胞などに広く発現する。atrn遺伝子に変異を有するラット(zitter rat)は髄鞘の低形成、ニューロン変性、酸化ストレス上昇、ミクログリアの増殖・活性化、血管から脳実質へのマクロファージの浸潤など加齢に伴う脳実質の種々の炎症様変化を示すことから、Atrnが炎症発症・慢性的な炎症持続機構に深く関わっていることが予測される。タンパク質の一次構造情報から、AtrnDPP-4Dipeptidyl Peptidase-4)様のペプチダーゼ酵素活性を持つ可能性がある。神経細胞膜上および分泌型Atrnが、脳実質内に拡散・蓄積する炎症性サイトカイン、ケモカイン、神経ペプチドを基質としてDPP-4様にプロッセッシングすることで、その活性を変化・不活化し脳の炎症反応を抑制しているという可能性を検証することを目的として、まず膜結合型、および分泌型の組換えAtrnタンパク質を発現させるためのバキュロウイルスベクターの構築を行った。今後精製標品を用いて生理活性の測定、in vitroの標的ペプチドを同定する予定である。